覚醒の時
第7話 出会うべくして出会ったもの
魔法については勉強してきたつもりだったが、
「何でもいいです。とにかく良いものをください」
この一言が良くなかったらしく、久野ちゃん仰け反って嘆く。
「一番困るのよ、良いやつをくれってのがさ。何が良いのか選んでくれないとさ。パワー? スピード? シールド? それ全部? だったらこれよ!」
本棚に手を突っ込んで、どんと飛鳥に突き出したもの。
ものすごく分厚い手袋だった。
「グレンヴァルドのレプリカ。あの葛原十条がつかっていた奴を完全にコピーした、すんげーやつ、すんげー重いけど」
一番耳に入れたくない名前を不意に浴びて体を震わせる飛鳥。
いらない。絶対にいらない。
あの祖父がつかっていた
「いらないか。まあ、これ500万するしね」
「ごっ! ごひゃく?」
買えるわけがない。
というか、
祖父がよこした手切れ金を使えば買えなくはないが、ここで大金を使ってしまうと飛鳥が計画していた高校卒業までのプランが大幅に狂ってしまう。
ジャンク屋のラインナップでこれなのだから、駅ビルにあるちゃんとしたお店の
良いものを買おうと思っていたのが、いつの間にか安価なものを買うという目的になってしまう。
最新型の
そんなことを繰り返している飛鳥が久野ちゃんは不満らしい。
どうして俺に聞かないの。ということだ。
「よう、ボーイ、前に使ってたレガの名前くらいは覚えてない?」
「ベルエヴァー、だと思うんですけど」
「ほっほう、ベル、エヴァー……」
ふんふんふんとあごに手をやり、目をつむり、ベルエヴァーという単語を何度も口にする。
久野ちゃんはズバリ言った。
「盗まれたんだね。その傷は襲われたからだろう」
「な、なんでわかったんですか……?」
うろたえる飛鳥に久野ちゃんはどや顔をする。
「俺みたいなレガマニアなら名前だけでピンとくるのよ。ベとルにエヴァーだからさ。本当にあの人が作ったものであれば、なんとしてでも手に入れようとする奴らが湧いてくる可能性もあるだろうね。君は運が悪かった」
「そうなんですか……」
知らなかったとはいえ、いつ襲われてもおかしくない状況を自分自身が作っていたことに気付いた。
「ま、これでも飲んで落ち着きなさい」
久野ちゃんは飛鳥にホットレモンティーを差し出した。
甘くて美味しい。
冷たくなっていた体に灯がともるのを感じる。
「警察には言った?」
「言っても無駄です」
「そか。ワケありだもんね」
すると久野ちゃんは言った。
「だったら取り返すしかないね」
飛鳥は即座にブルブルと首を振った。
「無理です! 僕なんか魔法も何も使えないのに……」
全力で拒絶しても久野ちゃんは首を強く振る。
「ちょっと待っててね」
駆け足で店の奥に入って、すぐ戻ってきた。
漆塗りの綺麗な木箱を飛鳥の前に置く。
「俺が趣味で作ってた
中には真っ黒なアナログ式の懐中時計があった。
手にしてみるとまるで空気のように軽い。
ツヤのないざらざらした感触が気持ちよくて、ずっと触っていたくなる。
「ベルエヴァーと同じ、第七世代レガリア。機種名はメイヴァース」
「メイヴァース……」
「かっこいいだろ、俺の好きなアーティストの名前を拝借したんだ」
そして久野ちゃんは言った。
「君に貸すよ。適当に使ってみな」
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