シナリオ:END2 ウロボロス

 君達は、どうしても気になってしまった。

 このホワイトスフィアが出来た理由。

 時間を司る力。

 そして、自分達のこと。


 君達はホワイトスフィアを手にすると、ホワイトスフィアが光り始める。

 魔動機時代の遺跡の中、君達はホワイトスフィアのスイッチを押し込む。

 強い光が辺りを包んだ。



 子供だった自分。

 大人になった自分。

 子供を作った自分。

 杖をつき孫に支えられる自分。

 暗殺者に殺される自分。

 老衰する自分。

 君達の時間軸は常に切り替わり本当の自分が誰なのかわからない。

 それが君達の病気。

 自分の生きる時間軸を飛び回り、その時代の思い出も作れないまま過去や未来へと意識を飛ばす力。

 制御が出来なかった君達は、生まれながらの老人、子供、青年、大人、医者、冒険者、そして死者。

 目まぐるしく変わる背景の嵐で、君達の心は形成されないまま時間は過ぎていった。


 だが、あるタイミングでピタリとそれは止む。白い部屋のベッドで目を覚ました君達は起き上がれた。

 初めて自分のしっかりとした意識で身体を動かせた気がする。


「坊や達、目を覚ましたのかい!」


 声の方へ向くと白衣を着たレプラカーンの女性がいた。彼女は急いで部屋から出ると初老の人間の男性を連れてくる。

 男性が話す。


「驚いた……よく目覚めてくれた君達。私の名前はジョージ。いわば、君達のお医者さんだ。君達は気づいているかわからないが、ずっと寝ている病気なんだ。その治療をしていた」


 ジョージの話によると、君達は生まれながら植物状態で、たまに起きては発狂していたのだと言う。

 だが、目覚める君達はしっかりと教育を受けた様に話が出来、何より知るはずの情報を知っている。また誤情報もある。

 恐らくは精神疾患の類いだと推測される。

 ジョージ率いるこのラボのチームは、これら特異体質を持った子供達を集め、真相解明並びに病気の治療を行う医者なのだと説明した。

 君達の親はすでに死んでいる者や事情があって世話が出来ない等何らかの理由で病気である君達を預けたのだと伝えてくる。

 幼い君達に選択肢は無く病院と伝えられたこの空間で生活することになった。

 注射等を定期的に射たなければならなかったが、望むなら施設から出ない条件で外を見せてくれた。

 望む物は与えてくれた。

 スタッフは全員親切に接してくれた。

 壁の落書きも誉めてくれた。

 今度は彫刻を作り驚かせようと思った。

 時に意識が飛び、違う時代の自分を見てパニックを起こすものの、日が経つに連れて症状が安定していった。

 自分の意識がこの病院無いで定着することが次第に多くなり、自分がここにいると自覚出来るようになった。

 ここがいつの間にか自分の家なのではないかと思えた。



 ある時、病院内のスタッフが慌ただしくなる。君達の病気の内容がわかったのだといってくる。

 ジョージから君達に伝えられる。


「君達は……どうやら時間を移動できる病気……いや、性質を持っている」


 君達は病気ではなかった。

 人智を越えた力を持った人族だった。

 患者の状態を移しとるホワイトスフィアという道具を開発し、他人の認識を共有することになったのだが……

 ジョージは驚いた様子で話す。


「私はこの機械で……過去に戻る体験をした。何度か試してみたがこれは本物だ。君達には時渡りの能力を持っているのだ」




 しばらくして、突然病院は慌ただしくなった。君達は実験室にある透けたカプセルに収容される。

 なにがなんだかわからない中、カプセルの外にいるジョージが君達へ話し始めた。


「君達の能力が漏洩した。明日にはラージャハ帝国から派遣がくる。恐らくスカウトギルドのさしがねだ、逃げることは出来ない。何度か変えることが出来ないか模索したがどうして未来が変えられない。二日間では足りない……」


 彼は君達の入ったカプセルに手を添える。


「君達は我が子同然だと私達は思っている。きっと彼らの元に君達が捕まってしまえば……酷い仕打ちを受けるだろう。私はそれを見てきた。それなら君達の記憶を消し、世界を変えるであろう力を偽装する。この検査機をあたかも時間跳躍の機械であると偽るのだ」


 ジョージは何度も君達の前で謝り、他の研究員達も悲しそうな表情を見せた。


「私達のことも、ここにいたことも君達は忘れる。君達の症状は治療によってもうだいぶ収まっている。更に君達の記憶を消せば、自分達の特異体質のことも忘れ、青い空の下穏やかに過ごせるはずだ。大丈夫、君達の里親の手配はしてある。皆良い人達だ保証するよ」


 徐々にカプセル内が白く曇っていく。


「今まで、大人の都合に振り回してしまって……すまなかった。けれど大丈夫だ、君達だけでも助かるように手はうってある。どうか全てを忘れて生きなさい」


 最後に声が響く。


「どうか、自由に生きなさい」





 皆の記憶はなくなる。

 皆、ジョージが用意した家族に引き取られ別々の道を歩んでいく。

 そしてこれは運命なのか、それとも自由を求める使命なのか、皆は冒険者となった。

 君達は自身の進むべき道へ歩き旅に出たのだ。


「起きろ! 冒険者達の徴集ちょうしゅうがかかったぞ! 今すぐ酒場に来い!」


 新たな仕事が舞い降りてくる。

 今日も波乱万丈な君達の人生は続いて行くのだ。



報酬1000G 経験点1000点 成長点1点

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る