チ○コ事件
”妻とはイギリスで出会って”事件の翌日、カイルと知り合うきっかけになったサイトをぼーっと見ていたら、誕生日にワンナイトの相手を募集している投稿を発見。チ○コの写真付きだった。チ○コはともかく、スーツのズボンと手に見覚えがある。文章の書き方もそうだけど、会う場所もイギリス人というのも彼に合致。うわーと思い、普段、彼とのやり取りに使っていないメールアドレスから偽名で投稿に返信。返信がきて、2通ぐらいやり取りした後にカイルだと確信。名前がカイルだったし、私宛にメールが来たのと同じタイミングでその投稿主からメールが来たし、誕生日がカイルの誕生日だったし、署名がSent from my iPadだった。彼はiPhoneが壊れてiPadを使っていたし、iPadからメール送る人なんてそんなにいない。「カイルじゃないことを願ってたのに残念。」と返信すると「会ったことあったっけ?」ととぼけた返信。その間に彼から「iPhone 4持ってるんだけど、iPhone 5のSIMを4で使えるようにするにはどうすればいいか知ってる?」というメールが来た。私がiPhoneを使ってないのを彼は知っているし、焦った彼が偽名のメールを送信したのが私か確認する為に送って来たとしか思えなかった。「知らない。」と返信したら、「ありがとう。」と来た。もうやってられないと思い”終わりにしたい”とメールを送った。
「終わりにしたい。カジュアルな関係が嫌だったのはカイルなのにこんなことするなんて。最悪。」
「僕が君に何をするって?君が僕のことを検索するからでしょ。今日は大変な1日を送ってるにも関わらず僕は君に優しく接してるでしょ。カジュアルに関しては、始まりはそうだったけど、僕は君についていっただけ。僕はどっちでもよかったし。君に興味がある人間が周りにいるのは君の方でしょ。僕は仕事とレスリングしかしてないし、結婚してるのかって聞かれた時はやり過ごしたけど、今なんのことを言ってるか知らないけど大げさだよ。こんなに親しくなって楽しい時間を過ごしたのに僕のことを簡単に諦めるのは酷い。関わろうとする気が全くない。何が不満?」
「こんな投稿するからでしょ。とぼけないで。スーツのズボンが同じだし、手にも靴にも見覚えがある。誕生日だって同じ。」
「分かった。僕に聞く前にアクションを起こしてくれてありがとう。それは僕の昔の写真だけど、投稿したのは僕じゃない。誰が投稿したのかは分かる。いつもクレイジーな人たちを惹きつけるから。ストーカー、怒りをコントロール出来ない子、僕の行動について嘘をつく子。人を信頼出来ないから僕の名前を検索しまくる子。僕は何も悪いことをしてないし、それを証明する為の投稿をするよ。君は最初に僕に聞くべきだった。」
「でも私はその投稿に返信して返信もらったんだけど。名前はカイルだったし。それはどう説明するわけ?」
「付き合ってた時のそんな写真を持ってる子なら僕の名前を知ってるのは当たり前だろう。」
心の中では”元弁護士がIT女に勝てると思うなゴラァ”と思ってたけど、その投稿を通しては誰にも会ってなさそうな気がしたから、こっちが折れる作戦に変更。彼はテクノロジーに弱いから、メールのソースを見ればカイルだって分かるよとか適当なことを言って吐かせる手段もあったけど。ただ、偽名メールでカイルのメルアドを入手する前に「カイルじゃないと願ってたのに。」と送ってしまったのはミスだったなと思い、「人違いかも。写真送るからメールアドレス教えて。」とその投稿主にまたメール。
「困惑してるけど、私が間違ってるなら謝る。カイルのことは好きなんだけど、この投稿で分からなくなった。」
「アカウントは僕のアカウントだよ。でも君は間違ってる。君の投稿に返信したのもこのアカウントだけど、他の人が過去に使ってたんだ。もうなくなったと思ってた。」
「そう。」
「ログインして君の返信を見たよ。でも自分のアカウントからブロックされた。ありがとう。東京で会うのは誰でもいいんだね、多分。」
「どういう意味?」
「男なら誰でもいいんでしょ。君は嫌がらせのために他の人に会うんだ。ブロックされたから写真送りなよ。もう寝る。」
自分が悪いくせによくここまで言えるなと思いつつ、折れる作戦に変更した以上、その作戦を継続。
「あーぁ。私がだめにしちゃったのか。人生最大の後悔の一つになるかも。長く続くと思ってたのに。」
「皮肉は君に似合わないよ。」
「もう私に興味がないのは分かってるし心が折れそう。私が思ってたよりカイルのこと好きだったのかも。苦しめてごめん。特別なつながりがあると思ってるけど、距離のせいで心配になるの。信頼するべきだった。なんにせよカイルは私の心の中の特別な場所に居続けるから。ごめんね。」
個人的にhave a special place in my heart(心の特別な場所に居続ける)は別れの時に相手を傷つけないようにする言い訳だと思ってる。
「痛みも苦しみもないし、驚きもない。ただがっかり。カジュアルにするか真剣にするかは君次第だったし。僕は君についていっただけ。でも君は僕と問題を起こすために色んなところを検索しまくった。陳腐な決まり文句には惑わされないから。ごめん。人を批判したり検索する人は自分に負い目があるからなんだよ。だから君も前回ここにいた時に他の男に何人か会ってたんだろう。人々が正直でいるか、何かあれば直接聞いてくれればいいのに。」
”相変わらずよく言うわー。検索しまくったわけじゃないし。”と思いつつ、そのまま作戦を継続。
「ありえないんだけど。カイルにしか会ってないし。exclusiveってことでやり直せない?でなきゃ本当に後悔する気がするし。」
「検索するのをやめるなら。次は何?ってことになるし。寝てる時に携帯を見る?職場の外で待ち合わせ?僕の女友達とか個人レッスンの生徒にメールして付き合ってるか聞く?全部実際に起こったことだから。」
私はどれもやってないけど、正直なところカイルの怪しさを思えば、そういうことをした人がいたとしても不思議じゃないと思った。
「もちろんやめる。ありがとう。」
「本当に?君が好きだし2人で過ごした静かな時間が大好きだった。」
「もちろん。好きだって言ったでしょ。」
「じゃあ証明して。魔女狩りはやめて、僕が君に接してるように優しく接して。」
「証明ってどうやって?」
「検索とかしないこと。ストレスフリーの時間を過ごしたいから。」
「そういうことする人間じゃないの。距離と始まり方のせいだと思う。もう大丈夫?」
「うん。でもがっかり。僕を押しのけるようなことはもうしないで。」
浮気はしてなさそうだったから終わらせるに足る理由はなかった。でもこれでカイルが、自分が悪くても自分を正当化させて、相手に罪悪感を抱かせる手法を取る人間なんだと学んだ。あと、その気になれば浮気が出来る男だってことも。正直に謝ってくれた方がよっぽど良かった。
なんだか悲しく思った私は、後日、カキモリに行ってノートを作ってカイルにあげた。誕生日プレゼントとは言わなかったけど。
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