第142話 旅の疲れは従妹で癒える

 電車が駅に到着すると、莉斗りとはまた重い荷物を持ってみんなの後ろを着いていく。

 今回泊まるホテルは、改札を出てすぐ正面にある大きな建物。30階建てと階層もお値段もお高いところで、母親のお慈悲が無ければ泊まるなんて不可能だったろう。


「ビーチも全部このホテルのオーナーの持ち物らしいわね」

「すごいです!」

「あたし、こんなところに住んでみたいな」

「でも、潮風があるから洗濯物は干せないね」


 何やら金銭面の話や洗濯の話と、せっかくの海で現実的な話をしている4人。

 彼は珍しく優しい美月みつきに助けられながら、ホテル前で彼女たちにようやく追いついた。


「莉斗、遅いわよ」

「ご、ごめん」

「まあ、お疲れ様。ここからは近いし、みんなで分けて持つわ」

「ミクぅ……」


 双子には2人で1人分を持ってもらい、あとのみんなは平等に分けて担当してくれる。

 ようやく重い荷物から解放された莉斗はミクに感謝しているが、その様子を見つめる美月は少し不満そうに頬を膨らませた。


「私が助けてあげてたのに……」


 そんな独り言を呟いた数十秒後には、現れたホテルマンによって全ての荷物が台車に積まれてしまうのだけれど。


「後で肩揉んであげるわね」

「ありがとう、ミク」

「私は揉まれてあげるよ?」

「……彩音あやねさんのは遠慮しようかな」


 心も体も軽くなってイチャつき始める兄を、3人の妹たちは少し離れたところから眺めるのであった。


「ほんと、甲斐性なし」

「全くだな」

「私も莉斗兄ぃにマッサージしたいです!」

「「ダメ」」

「ど、どうしてですか?!」

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「莉斗兄ぃ、気持ちいいですか?」

「すごくいいよ。ありがとう、あおい

「いえいえ、頑張ってくれたご褒美ですので」


 結局、じゃんけんをしてマッサージをする権利は葵のものになった。そういうわけで、彼はホテルの部屋の寝室で癒されているところである。

 彩音やミクが企んでいた刺激的なマッサージも気になりはするが、葵が力を入れる時の息遣いを聞いていると、身も心も完全に癒されてしまった。


「それにしても、広いお部屋ですね」

「本来は四人部屋だから、ベッドとかは4人分しかないけどね。茜と葵なら多くても大丈夫だと思う」

「むっ……茜ちゃんを小さいと言ってるんですか?」

「そういう意味じゃないよ。2人ならベッドが狭くなっても気にならないって意味」

「……えへへ♪」


 照れたように笑う彼女に「もう大丈夫」と降りてもらい、代わりにひょいと抱きかかえて膝に乗せてあげる。

 そのまま後ろからぎゅっと抱きしめ、同時に頭を撫でてあげれば、最大限に従妹を愛でられる体勢の完成だ。


「でも、莉斗兄ぃはミク姉ぇと一緒じゃないとダメです!」

「どうして?」

「将来の夫婦ですから♪」

「葵までそんなこと言う……」

「でも、私も莉斗兄ぃと寝たいです。うぅ、どうすればいいかわからないです……」


 頭を抱えてしまう葵を微笑ましく思いながら、莉斗は「大丈夫」と一層強く抱き締めた。


「ミクも葵と一緒に寝たいはずだから」

「ほんとですか?」

「3人で寝ればいいよ」

「あの、茜ちゃんも……」

「4人でも平気」

「じゃあ、みんなで寝ましょう!」


 満面の笑みを浮かべる彼女を見ていたら、マッサージよりも元気になってきた気がする。これなら今からでも海に行けるかもね。


「……もう少しマッサージしてくれる?」

「もちろんです♪」


 やっぱり、心地良さには抗えなかったけど。

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