第140話 旅行の始まりは準備から
買い物の日から数日が経って、
「茜ちゃん、忘れ物はないわね?」
「5回も確認したから大丈夫だ!」
「葵ちゃん、足りないものはある?」
「ちゃんとチェックしました!」
回数で見落としを無くす茜と、メモに必要なものを書いて順に確かめた葵。
2人の性格の差がそこに現れているものの、どちらも海が楽しみなことに違いはないらしい。
「
「子供扱いしないでよ。私は茜ちゃんたちよりお姉さんなんだから」
「お姉さんって、ひとつしか違わないでしょ」
「それでもひとつ大人だもん!」
莉斗にはよく分からないが、美月にも年上のプライドがあるらしい。
そうは言っても忘れ物をさせるわけにはいかないため、こっそりチェックしてあげようとしたらビンタされてしまった。
さすがに初めに手に取ったのが下着だったのはまずかったね。でも、怒るならどうして昨晩、自分の服も同じカバンに入れてって言ってきたんだろう。
「じゃあ、そろそろ出発の時間ね」
「みんな荷物持って!」
「「「はーい」」」
ミクと彩音の声に、返事をした妹組の3人。
美月は一目散にレジャーシートなどが入ったカバンを肩にかけ、茜と葵はミクから任せられた日焼け止めなどの入った小さなポーチをそれぞれ斜め掛けした。
「莉斗はこれね」
「うっ、重い……」
「それは文句かしら?」
「……いえ、お役に立てて光栄です」
「よろしい♪」
莉斗はと言うと、綺麗に畳まれた浮き輪やスイカボール、サンダルに空気入れなど色々入った一番重いカバンを渡されていた。
もちろん、拒否権などないのでニコニコしながら受け取らさせてもらう。
逆らったら最後、砂の中に埋められて「スイカ割りしようぜ、お前スイカな」という状況になりかねないから。
「準備よし、戸締りよし。じゃあ、出発すわよ」
「中学生は高校生のお兄さんお姉さんと手を繋ぐんだよ」
「「「はーい」」」
玄関の鍵をかけてさあ出発。それぞれ手を繋いで歩き始めれば、雰囲気はまるで遠足だ。課外学習をするには少し蒸し暑すぎる季節かもしれないけれど。
「お兄ちゃん、手汗かきすぎ」
「ごめん、暑くて」
「ほら、拭いてあげるから出して」
「あ、うん……」
ポケットから取り出したハンカチで手を拭いてから、もう一度そっと握ってくれる美月。
なんだかその優しさに怪しさを感じてしまうが、莉斗はそういう気分の日もあると思い直して「ありがとう」と微笑んでおく。
「夏の女の子は開放的になるものなんだよ。今なら、少しくらい変なことでも許せちゃう」
「変なこと?」
「試してみる?」
そう言いながら、暑そうに胸元をパタパタとする美月。彼は反射的に目を逸らしながら、「遠慮しとく」と呟いた。
「欲望に負けちゃえばいいのに」
「妹相手に何も感じてないから」
「この旅行中、ずっとそう言ってられるかな?」
彼女のその一言から、莉斗が嫌な予感を覚えたことは言うまでもない。温泉旅館の時のように、大人しくしていてくれればいいのに……。
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