第134話 音漏れ注意報
「あの……わ、私聞いちゃったんです!」
ミクに催眠術をかけられたフリをした日の夜、部屋にやってきた
「何を?」
「へ、部屋で
「……え?」
彼女の言葉に、一瞬全細胞が背筋を伸ばす。しかし、彼女は『聞いた』としか言っていない。見たわけではないのだ。
それならまだ誤魔化せると判断した莉斗は、慌てて「いやいやいや!」と首を横に振って見せる。
「あれは今度学校でやる園児向けの劇の練習だよ!」
「劇、ですか?」
「僕は桃太郎の家来の犬役なんだよね」
「わんちゃんですか……なるほどです」
変な声というのがどの辺のことを言われているのかは分からない。でも、葵はまだ中学一年生という純粋な時期だ。
似たようなものを言っておけば、上手く勘違いしてくれると考えたのである。
「確かにワンワンと鳴いていましたね」
「でしょ?」
「でも、お尻が何とかって言ってましたよ?」
「そ、それは……」
その辺のことは、犬を貫くことは難しい。犬に対して『いいお尻』なんて言っていたとしたら、桃太郎は単なるド変態だから。
剣は剣でも桃太郎の桃太郎を握り始めて、鬼退治の前に主人公がお縄にかかる可能性もある。そうなれば、園児に向けて上演していい内容ではなくなってしまうだろう。
「えっと、ミクが最近お尻のダイエットを始めたらしいんだよ。その話をしてたんじゃないかな」
「ミク姉ぇはもうスリムですよ?」
「女の子は痩せてても痩せたいと思うものなんだよ」
「た、確かに私も痩せたいです……」
「なら、ミクと一緒にダイエットするといいよ」
「そうします!」
葵は満面の笑みで頷くと、「勘違いだったんですね!」と部屋から出て行ってくれる。
その後ろ姿にホッとため息をついたのも束の間、次に顔を出したのは葵と同じ顔でも雰囲気が全く違う
「よくもまあ、あんな嘘を言えたな」
「う、嘘じゃないよ」
「あたしだって聞いたんだ、お兄の情けない声をな」
「っ……」
「まさか
「手を出してると言うか、出されたというか……」
「どこまでも情けない男だな」
確かに彩音もミクも、初めての時は莉斗を襲った側だった。しかし、今となっては同意の上の行為であり、茜にその言い訳は通用しない。
「それに、随分と激しいことをしてたみたいだな」
「は、激しいこと?」
「てっきり、耳を触るだけだと思ってたんだよ。でも、音を聞く限りはそうじゃなかった」
「あ、茜? 何を……」
ジリジリとこちらに迫ってくる彼女は、「言ったろ、彩音に傾く理由を調べるって」と言いながら莉斗をベッドに押し倒した。
そのまま腰の上に乗っかって手首を押さえつけ、身動きを封じてから耳元に顔を寄せてくる。
「そのためには、全部真似しないとな?」
「そ、それだけは!」
「悪いな。好奇心が押さえられねぇんだよ」
「あの、いや、待っ―――――――――」
その後、何をされたのかは莉斗すらも覚えていない。いや、思い出したくないほどに滅茶苦茶されたということだけを記しておこうと思う。
「あ、茜……怖い……」
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