第133話 謝罪と詫びは背中合わせ
あれから数分後、
興奮しすぎたせいで、普通にミクの名前を呼んでしまったのである。詰めが甘いとはまさにこのこと。
「初めから催眠術なんて効いてなかったってこと?」
「そ、そうです……」
「つまり、私は普通の莉斗に向かってお手を教えていたの?」
「は、はぃ……」
「なるほどね。よくわかったわ」
ミクのことだ、羞恥心のあまり怒ってくるかもしれない。莉斗はそう覚悟したのだが、いつまで経ってもそんな声は飛んでこなかった。
むしろ、「わざわざありがとう」と微笑まれ、彼の方が困惑しそうになってしまう。
「僕、ミクのこと騙してたんだよ?」
「そうね。でも、人を傷つける嘘じゃないわ」
「そうかもしれないけど……」
莉斗が納得のいかない表情をすると、彼女は仕方ないというふうに苦笑いしながら、少し強めのデコピンをした。
「確かにその嘘で私は恥ずかしい思いをしたわ。これはその分のお返し」
「……これでおしまい?」
「ええ、おあいこよ。満足?」
「ミクがいいって言うなら……」
「じゃあ、もし足りないって言ったら?」
「もっとデコピンしていいよ」
「ふふ、しないわよ」
ミクは「その代わり……」と言いながら顔を寄せてくると、先程デコピンをした箇所に軽く唇を当てる。
そしてゆっくりと離れながら、「これで足りたわ」と嬉しそうに微笑んだ。
「うぅ……」
「莉斗の方が物足りない顔してるわね」
「そ、そんなことないよ!」
「隠さなくていいの。お見通しなんだから」
「でも……」
「もっと犬の真似がしたいんでしょう?」
「……ん?」
何故か勘違いされている。けれど、彼女に「莉斗、お手」と命令されると不思議と逆らう気になれなくて、大人しく犬の真似をすることに。
もしかすると、気付かないうちに催眠術の効果が出てきたのかもしれない。
「莉斗、私聞いたことがあるの」
「何を?」
「ワンちゃんには服を着せちゃいけないって」
「そ、それってつまり……」
「服、脱がなきゃよね?」
「え、あ、ちょ――――――――――」
その後、パンツ以外を全て脱がされた彼が逃げ回り、半ケツ状態で懇願して何とか許してもらったものの、毛並みのチェックと称して全身撫で回されたことは言うまでもない。
「ミク、そろそろ服着せてよ……」
「だめよ」
「風邪引いちゃうから」
「なら私が人肌で温めてあげるわ」
「そ、それはいいから!」
自分まで脱ぎ始めようとする彼女を慌てて止め、仕方なく犬としての責務を全うする莉斗。
今の格好で抱きつかれたりなんてすれば、男としての反応を隠す手段がないから問題なのだ。
「ペットを労うのも飼い主の義務よね」
「な、何するつもり?」
「マッサージするだけよ、マッサージ」
そう口にした彼女の視線に嫌な予感を覚えた彼は急いで逃げ出そうとするも、あっさりと狙われていたお尻を鷲掴みされて体から力が抜けてしまうのだった。
「ふふふ、いいお尻ね」
「おじさんみたいなこと……い、言わないでよ……」
「だめ、ヨダレが出ちゃう」
「変なこと想像しないでよ?!」
「大丈夫よ、痛いことはしないから」
「…………へ?」
その後、莉斗の身に何が起こったのかを知るものは、2人の他に誰も居ない。
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