第130話 敵は意外と身近にいる
シルエット的に
『い、一緒に入ってもいいか?』
「僕は別にいいけど、茜はいいの?」
『どうせ昔は一緒に入ってただろ』
「昔の茜とは違うからね」
『……いい、入る』
彼女はさっさと服を脱いでタオルを巻くと、どこかオドオドした様子で浴室へと踏み込んできた。
やっぱり2年経ってるだけあって、少しは女性的なシルエットになったんだね。相変わらず幼さは抜け切っていないけれど。
「あんまり見んなよ」
「ごめん、可愛くなったなと思って」
「かわっ?! お、お兄のあほ!」
「褒めたのに酷いよ」
「このタイミングで言うのは間違いだろ!」
彼女は膨れっ面のまま体を洗うと、数回深呼吸をしてから浴槽に足を入れてくる。
ただ、そこまで広くないがゆえに足の踏み場に困っていたようなので、ひょいと持ち上げてお湯に浸からせてあげた。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
向かい合って肩まで温まれば、昔やっていたようにタオルで耳を優しく拭いてあげる。
これをすると、2年前の茜は気持ちよさそうに笑ってくれたのだ。ただ、今はそうでも無いらしい。
「……」
「茜、これ嫌いになった?」
「嫌いじゃない。けど、変な感じがする」
「変な感じってどんな?」
首を傾げる莉斗をじっと見つめた茜は、「……こんな感じだよ」と呟くと彼の耳に手を伸ばしてギュッと掴んだ。そして。
「あ、ちょ、あか……ね……」
縁を親指で円を描くように撫でたり、穴の浅い部分を出たり入ったりさせてくる。
純粋なはずの彼女がわざとするはずがないと邪念を振り払いたかったが、顔を真っ赤にしながら自分まで息を荒くしている様子を見れば事実を受け止めるしかなかった。
「彩音とこういうことしてたんだろ?」
「ど、どうしてそれを……」
「してたんだろ?」
「……うん」
いつ見られたのかは分からない。ただ、実際にバレてしまっているのだから反論のしようがない。
莉斗は茜がそれ以降無言で耳を弄りつづけるのを、なるべく反応を抑えながら耐え続けた。
そして数分後、彼女は満足したのかお風呂から上がると、扉を開けながらこちらを振り返る。
「お兄が彩音に傾く理由、あたしが身をもってハッキリさせてやる」
「ど、どういう意味?」
「お姉とくっつけるために体を張るんだよ」
茜はそんな言葉を残して、風呂場から去っていく。服を着て脱衣所を後にした影を見送った彼が、面倒なことになったと頭を抱えたことは言うまでもない。
「ああ、また2人に言えないことが増えた……」
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