第122話 第一印象はかなり大事らしい

 帰る途中でアイスを買いに来たことを思い出し、莉斗りとはコンビニまで引き返してあかねあおいの分も合わせて買って帰った。


「ただいま」

莉斗りと、おかえり……」


 玄関まで出迎えに来てくれたミクは、彼の背中に隠れている二人を見て固まる。

 そして彼女たちと莉斗斗を交互に見たあと、困ったような表情をした。


「連れ子?」

「いや、違うよ?!」

「ふふ、冗談よ。茜ちゃんと葵ちゃん、久しぶりね」


 ミクが両手を広げながら「おいで」と声をかけると、茜がすぐに駆け寄って行き、葵も少し遅れて躊躇いながらも抱きしめられる。

 昔からミクは2人に懐かれているのだ。葵の方は少し久しぶりで様子見をする時間が必要みたいだけど、元に戻るのも時間の問題だね。


「……」

「何よ、莉斗。一緒に抱きしめて欲しい?」

「ち、違うよ!」

「ふふ、心配しなくても後でしてあげるわよ」

「うぅ……」


 2人の前でこういうことを言われると、義理と言えど兄としての威厳が保てなくなってしまう。

 それに高校生の男女が普通にハグをするものだと思われても困るから、茜たちの滞在中は控えて欲しいところだ。


「お姉、相変わらずお兄のこと大好きだな」

「そうね、大好きよ」

「告白、しないですか?」

「したわ。でも、考える時間が必要みたい」

「おいおい、お姉に何の不満があるんだよ」


 茜は余程莉斗とミクにくっついて欲しいらしく、不満そうにぺしぺしと太ももを叩いてくる。

 彼がなんと答えればいいのか分からずに困惑していると、「2人ともどうしたの?」と言いながら彩音あやねが階段を下りてきた。


「……って誰?!」

「それはこっちのセリフだ。もしかして、お姉の気持ちに応えられないのはこいつが原因か?」

「待って、何の話? 彩音さん分からないんだけど」

「こいつを倒せば、お兄はお姉と……」


 何やらブツブツと独り言を呟く茜は、何かを決めたように頷いてから彩音に向かって飛びかかる。

 彼女も突然のことに驚いたようだったが、ギリギリのところで攻撃を避けて距離を取った。


「いきなりなんなの?!」

「お兄の幸せのために消えてもらう!」

「莉斗君、物騒なこと言ってるよ?!」


 家の廊下で追っては逃げ追っては逃げを繰り返す2人。途中でこれではらちが明かないと悟ったのだろう。

 彩音はくるりと体を反転させると、突進してくる茜の体を受け止める。そしてギュッと抱きしめた。


「っ……離せ!」

「ふふ、小学生が勝てるわけないでしょ」

「あたしは中学生だ!」

「その割に小さくない?」


 茜と葵は生まれた時から体が小さかったのだ。父親よりも母親の遺伝を強く受けたのだろう。

 ただ、本人からするとそれはコンプレックスだったようで、彩音の言葉に目を潤ませてしまった。


「うぅ、そんなこと言うなよぉ……」

「え、あ、ごめんね?!」

「あたしだってでっかくなりたいんだよぉ……」

「な、泣かないで!」


 茜は男勝りな口調と性格をしているが、実はガラスのハートで泣き虫なのである。

 むしろ、泣き虫を隠すためにこんな性格になったと言った方が正しいのかもしれない。

 彼女は彩音がいくら慰めても泣き止まなかったが、葵がギュッと抱きしめてあげると、まるで悲しみを半分こしたように涙が止まった。


「大丈夫、2人合わせたらおっきいです」

「ぐすっ……」

「茜ちゃんが小さくても、私は大好きですよ」

「あおいぃ……」


 胸に顔を埋めてくる双子の姉を「よしよし」と頭を撫でてあげる。そんな様子を微笑ましく思いながら眺めていると、突然葵が彩音の顔を見上げた。

 そして、普段物静かな彼女と同じとは思えない威圧感のある表情を見せつつ、すごく気持ちのこもった声で呟く。


「また茜ちゃんを泣かせたら、許さないですからね」

「ご、ごめんなさい……」


 葵はこう見えて茜のことが大好きで、彼女のこととなると人が変わるのだ。それには理由があるのだけれど、その話はまた今度にするとしよう。

 とりあえず、葵は彩音と最悪の出会い方をしてしまったということだけが、莉斗にとっての心配事だった。

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