第121話 再会は突然に
「
「お兄の所に遊びに来たんだよ。夏休みなんだから普通だろ?」
「そうかもしれないけど……」
茜は
ただ、彼女はここ2年間は顔を見せていなかったのだ。だから、突然の訪問に驚いてしまったのである。
「ほら、受験が終わっただろ?」
「そっか、茜ももう中学生なんだね」
「おう。昔のあたしとは違うんだ」
ドンと胸を張って見せる彼女は、2年前よりも少し成長した自分を誇るように微笑んだ。
ショートだった綺麗な黒髪はボブほどの長さまで伸びているが、それでも男勝りな性格と口調は相変わらず。微笑ましい限りだね。
「ところで、ここに来たのは茜だけ?」
「いや、もちろん着いてきてるぞ」
茜がそう言って路地裏へと入口を振り返ると、そっと影から顔を出した少女がオドオドとこちらに近付いて来る。
そして茜の後ろに半身を隠すと、か細い声で「ど、どうも」と言いながら頭を下げた。
「
「は、はぃ……」
「僕のこと覚えてる?」
「莉斗兄ぃです」
「良かった、忘れられてなくて」
葵は茜の双子の妹。つまり、彼女もまた莉斗の従姉妹だ。2人は一卵性双生児で、口を開かなければどちらがどちらなのか分からないほどに似ている。
それでも、男勝りでアクティブな茜と、物静かでいつも誰かの陰に隠れている葵を見間違えたことは無かった。
理由はわからないが、不思議と感じ取れるのだ。発されているオーラか何かのおかげで。
「まあ、お兄のことだから寂しい夏休みを過してるんだろ? あたしたちが遊び相手になってやるよ」
「それは嬉しいね」
「莉斗兄ぃ、お友達居ないですか……?」
「あはは、残念ながらね」
「……」
葵はじっとこちらを見つめると、掴んでいた茜の腕を離して莉斗の横に来てくれる。
そして小さな両手で一回りも二回りも大きな手を握ると、「わ、私もです……」と小声で呟いた。
「葵、友達が出来なかったの?」
「……はいです。話しかけるのが怖くて……」
「そっか。まあ、絶対いなきゃいけないわけでもないから大丈夫だよ」
「莉斗兄ぃは欲しくないのですか?」
「今はいらないかな。ミクたちがいるし」
「ミク姉ぇはお友達じゃないです?」
「……そうだね、少し違うかもしれない」
中学生になったばかりの2人には絶対に言えないことなので、「幼馴染だから、友達より大事なんだ」と誤魔化しておく。
「なんだ、まだ付き合ってないのか?」
「ま、まだ……?」
「お姉がお兄のこと好きなのは前から分かりきってただろ。てっきりもうキスくらいまでは済ませたと思ってたんだけどな」
「そ、そんなわけないでしょ。へ、変なこと言わないでよ……」
付き合ってはいないけれどキスはしたなんて言えば、純粋な2人に嫌われかねないのでお口チャック。
その後も茜からは色々と際どい質問をされたが、何とか全て当たり障りのない返事をしておきながら家まで連れていったのだった。
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