第105話 男にしか分からないロマンがある

 夕食を食べた後、食器の回収に来た仲居さんたちと一緒に、女将さんが部屋に上がって「この後のイベント、参加されますか?」と聞いてきた。


「イベントの内容は教えてもらえないんですか?」

「ふふふ、それは来てからのお楽しみです」


 なんだか怪しいが、既に参加客も2組いるということで、さすがに恐ろしいことが起こるなんてことは無いだろうと、4人で参加することに決める。


「では、3組参加ということで」

「……3組?」


 見えてはいけないものでも見えているのかと思ったが、どうやらそういうことでは無いらしい。

 このイベントは2人1組で参加するのだ。しかし、それでも4人なら2組になるはずだが……。


「せっかくのイベント、きっとお好きな方と参加されたいでしょうから」


 女将さんは最後に「15分後に旅館前にお願いします」と言い残して、にっこりと笑いながら帰って行った。

 それから先程の言葉の意味を少し考えて、莉斗りとはようやく3組になる組み合わせに気が付く。


「ああ、そういうことか……」

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 それから30分後。一行は旅館前からバスに乗って移動し、イベントが開催される森の中へとやってきていた。


「はーい、皆さんこちらですよ〜」


 光る棒で場所を示しながら、イベント参加者を人為的に切り開かれたであろう場所に集める女将さん。

 場所が森の中ということもあって、動きやすさを優先したのか彼女は着物ではなく半袖半ズボンになっていた。

 全然気付かなかったけど、女将さんって結構ボンキュッボンだったんだね。光る棒を振る時にちらりと見える脇が何と言うか……エロい。


「ちょっとたっくん、女将さんの方見てニヤニヤしてる!」

「し、してねぇし! まーやんが一番だっつーの」

「そんなこと言って、私の胸が小さいから他の人のを見るんでしょ。もう知らない!」

「こんなところで拗ねないでくれよ……」


 どうやら向こうの大学生くらいのお兄さんも同志のようだ。男には分かる、ついつい見てしまうあのチラリズムの良さが。


「莉斗、今変なこと考えてたわよね?」

「っ……し、してねぇし……」

「向こうの人と同じ反応、怪しさしかないわ」

「待って、白状するから引っ張らないで!」

「ダメ、ちゃんと分からせてあげなきゃ」


 その後、スッキリした顔のミクとしゅんとした莉斗が茂みから戻ってきたことは言うまでもない。

 彩音も彼のことをじっと見ていたが、反省したと判断してくれたのか、よしよしと頭を撫でてくれた。


「お兄ちゃんって脇フェチなの?」

「ち、違うよ? ちらっと見える感じが堪らないというか……決して脇が好きなわけでは……」

「キモ、美月みつきでもさすがに引くよ?」

「ぐふっ」


 やはり言葉は時に凶器になる。たったこれだけの言葉で、こんなにも抉られるように苦しいのだから。

 きっと、イベントの進行をスムーズにするためだろう。胸を押えて倒れた莉斗を見た女将さんが、「元気出してください」と非売品である飴玉をくれた。


「女将味……って何味なんですか?」

「甘酸っぱい青春の味ですよ」

「レモンですよね?」

「いえ、女将味です」


 あと5回ほど同じやり取りをしたけれど、最後まで女将味で押し通されてしまったそうな。

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