第103話 旅先は思い出に耽りがち
麓の商店街は、元々旅館に来た客が観光に来ることを想定して作られているのだろう。
旅館客に対する割引だったり、サービスだったりが豊富で、食べ物の他にも地域の伝統を体験する施設なんかもあった。
伝統料理を学べる場所ではミクがあまりにも聞き入ってしまい、一通り周り終えるまでにそこそこの時間がかかってしまったけれど、時間をかけただけの価値はあったように感じられる。
「ふぅ、歩き疲れた足が癒されるね」
「そうね、すごく気持ちいいわ」
「
「はーい」
そして今は、帰りのバスを待っている間、近くにある足湯エリアでのんびりと温まっていた。
さすが天然温泉を引いている旅館が近くにあるだけあって、足湯だけでも色々と効能があるらしい。
多分、最後に小さい文字で書いてある『精力増強』は嘘だろう。うん、嘘だろうから3人ともそんなに僕を見つめないで。
「この後は帰って夕飯だっけ?」
「ええ、その後にイベントよ」
「なんのイベントなのかな」
「それは私も聞いてないわ」
あの女将さんが考えたのなら、少し嫌な予感がしなくもない。
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「……ん、あれ?」
ミクが目を覚ますと、いつの間にか旅館の部屋に戻っていた。確か、さっきまでバスに揺られていたはずなのに。
「おはよう、もう夜ご飯だよ」
「莉斗……もしかしてここまで運んでくれたの?」
「ぐっすり寝ちゃってたからね」
「ごめんなさい、疲れちゃってたみたい」
「謝らなくていいよ。久しぶりに昔を思い出せたし」
「……ふふ、あの時のことね」
彼らの言う昔とは、2人が小学校低学年だった頃、まだ恋心のコの字も知らないような時期のことである。
ミクが意地悪をする男子から友達を守ろうとしたら、今度は彼女が靴を隠されてしまったのだ。
『手伝おうか?』
『……いい、自分でやらなきゃだめなの』
悪いやつには自分の力で勝つ。そう言って言うことを聞かない姿勢に折れ、莉斗はミクを置いて家に帰ってしまう。
しかし、彼女は夕方になっても帰って来ず、ミクの父親が大慌てで探しているという話を聞いた時、莉斗は初めてミクの執念深さを思い知った。
『……まだ探してたの』
『見つかるまで探さないと……だめなの……』
場所を知っていた彼は真っ先にその場所へ向かい、ミクに声をかける。
空は暗くなりかけているし、遅くまでここにいると危険だと判断した莉斗は、草をかき分ける彼女の手を掴んで引っ張った。
だが、すぐに離してしまう。ミクの目からポタポタと涙が溢れているのを見たから。
『ママ……ママが買ってくれた靴だから……』
この時期は、ミクの母親が病で亡くなってから一年も経っていない頃だった。
最後のプレゼントとなってしまったその靴は、彼女にとって絶対に無くせないものだったのである。
「その後はどうなったんだったかしら」
「えっとね、確か――――――――――」
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