第102話 山では確認を怠るべからず

「本当にこっちで合ってるの?」

「ロープが続いてるから間違いないと思うんだけど」

「お兄ちゃん、足痛くなってきた……」

「わかった、おんぶしてあげるから」

莉斗りと君私も〜」

彩音あやねさんは頑張ってよ」


 そんなこんなで道無き道を歩くこと40分。どこまで歩いても木しか見えない上に、地面の傾斜が山道よりも急で足首が限界だった。


「ほ、本当に近いって聞いてたのよ?」

「ミクを疑ってないよ。多分、どこかで道を間違えたんじゃないかな」

「じゃあ、戻った方がいいわよね」

「そうだね、少し休んでから―――――――」


 引き返そう。そう言いかけたところで、莉斗の背中にいた美月みつきが「あっ」と声を上げる。


「あそこに人が見えるよ!」


 その言葉に少ししゃがんで見てみると、木々の隙間から山道を登る2人組のおばあちゃんの姿が見える。

 4人で何とか力を振り絞ってそこへ向かってみると、『パワースポットはこちら』と書かれた看板と赤い布が視界に写った。


「ど、どういうこと……?」


 ガイドには山道は1本しかないと書かれてあったはず。つまり、莉斗たちは山をぐるりと一周して同じ山道に戻ったということ。

 少し離れた位置には茶色い布もあった。彼らは3分で辿り着けるところを、40分もかけて登ってきたのである。


「……」

「……」

「……」

「……」


 4人は言葉を失い、お互いに顔を見合わせてから看板の奥へと歩き出した。

 こんなにも苦労したのだから、パワーを授かって帰らないと大損になるから。しかし……。


「人、多いね」

「結構人気なのね」

「お参りの列、1時間待ちだって」

「美月もう帰りたい」


 パワースポットである神社は、観光に来たのであろうおばあちゃんたちで溢れかえっており、今の莉斗たちにその中へ混ざる元気は残っていなかった。


「……帰ろう、お腹空いたし」

「ミクちゃん、バスの時間って何時?」

「えっと、10時半よ」


 そう言って時間を確認した彼らが、「残り10分しかない!」と大慌てで山道を駆け下り、ギリギリバスに乗り込んだことは言うまでもない。


「もう二度とパワースポットなんて行かないわ……」

「パワースポットに罪はないけどね」

「考えてみれば道すらないのはおかしいわよね。おそこに進もうって言ったの誰よ」


 その後、「ごめんなさい……」と落ち込んでしまった美月を、ミクは目的地に到着するまで慰め続けていた。


「お、お姉ちゃんも疑わなかったから同罪よ!」

「でも、美月が印を見つけなければ……」

「私も確認するべきだったから、ね?」

「美月の言葉は信じるに値しないってことか……」

「ち、違うわよ?! 念の為に―――――――」


 最終的に、みたらし団子を食べたら2人とも元気になってたけどね。

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