第101話 パワースポットと聞くと見てみたくなる
「2人とも、寝不足?」
「ちょ、ちょっとね……」
「あはは、布団が慣れなくて……」
翌朝、
ただイチャついてて眠れなかったなんて言えない2人は、少し胸を痛めながらお茶と一緒に嘘を飲み込む。
「今日は忙しくなるけど、そんなで大丈夫なの?」
「あれ、予定なんて決まってたっけ?」
「さっき、女将さんにパワースポットがあるって聞いたのよ。
確かにこんなところまで来て、ただ部屋にいるだけというのは勿体ない。
この旅館は少し山を登ったところにあって、少し離れたところには山道がある。それに沿って歩いていくとパワースポットが待っているのだとか。ぜひ見てみたい。
「その後はバスで麓の商店街に行って、そこでお昼ご飯を食べたり観光をするの。夜は旅館主催のイベントがあるらしいわ」
「本当に忙しいね」
「山で怪我されても困るし、心配ならパワースポットは私と美月ちゃんだけで行くけど……」
「ううん、一緒に行くよ。せっかくの旅行だから」
「そう。なら、朝食を食べ終えたら出発よ」
その言葉に莉斗は頷き、隣にいた彩音はパタリと倒れて寝息を立て始めてしまった。出発は少し遅めになりそうだ。
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朝食を食べ終え、外出用の服に着替えた莉斗は、外で待ってくれていた3人と合流してフロントへと向かう。
そこで仲居さんに『パワースポットに行くには』と題の付けられたパンフレットを受け取った。
「パワースポットはここからそう遠くないみたい」
「それなら大丈夫そうだね」
「でも、最後に山道から外れて木の間を抜けるから、怪我した時のために絆創膏を買っておいたわ」
「さすがミク、用意周到だよ」
「でしょ?」
水と食料が入っていることも確認して、いざ出発。一行は旅館を出てから右手へと歩き、山へ続く道を見つけるとその上を歩き始めた。
「私、山登りなんて久しぶりよ」
「私も小学生ぶりかな」
「美月は初めて!」
そんな何でもない会話をしつつ、15分ほど緩やかな傾斜を登って足を止める。
パンフレットには『布が巻かれた木に沿って木々を抜ける』と書いてあったのだが、美月がそれらしきものを見つけたのだ。
「これかな?」
「……これなのかな?」
確かにそこには布が巻かれている。しかし、茶色い木の幹に巻くにしては目立たなさすぎる茶色の布だ。
もし彼女が見つけなければ、そのまま気付かずに通り過ぎてしまっていただろう。
旅館はあまり目立たせる印を付けて、パワースポットに来る人を増やしてしまいたくないということなのだろうか。
「紐が向こうの木に繋がってるよ。これを辿ればいいのかな」
「きっとそうだね、行ってみよっか」
「お兄ちゃん、足元が危ないから手繋いでくれる?」
「美月もまだまだ子供だね」
「違うもん、お兄ちゃんが転ぶかもだから……」
「はいはい、繋いであげるから」
「……もう」
そうして4人は山道から逸れて、足場の悪い森の中へと入っていったのだった。
しかし、彼らは確認するべきだった。もう少し登った場所に、『パワースポットはこちら』と書かれた看板と赤い布が巻かれた木があるということを。
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