第100話 夜は身の回りに注意しよう

 風呂から上がって少ししてから、莉斗りとは机を移動して開けたスペースに布団を2-2で向かい合うように並べた。


「誰がどこに寝るか決めよっか」


 そう言って3人を集めた彼は、まず奥の布団を指差しながら「あそこがいい人」と聞く。


「「「……」」」

「あれ、全員嫌なの?」

「莉斗君がそこに寝てよ」

「わかった、じゃあ僕があそこね」


 莉斗は自分の場所と決まった布団の上へ移動し、今度はその隣を指しながら「ここは?」と彼女たちを見た。


「「「はい!」」」

「きゅ、急に元気になった……」

「だって莉斗の隣がいいんだもの」

美月みつきもお兄ちゃんの横がいい!」

「わ、私だって!」


 グイグイと迫ってくる3人に、彼は思わず後ずさってしまう。しかし、壁際に合わせて敷いたせいで逃げ道がなく、またもあっさり取り囲まれた。


「でも、一人しか寝れないよ?」

「私よ!」

「天音だもん!」

「私だって!」


 誰も引く気は無いらしい。ならば、自分が選んだ方が早いだろうと考えた莉斗は、とりあえず彩音あやねを指差した。


「今日は彩音さんがここに寝て」

「えへへ……って今日は?」

「明日はミク。そうやって交代すればいいよ」


 このやり方は最も公平になる。ただし、寝る回数が3回だった場合のみだ。

 今回の旅行は2泊3日、寝る回数は2回しかない。つまり、彼の指名の通りでは美月だけが隣になれないわけで―――――――――――。


「美月は?!」

「家でいつでも一緒に寝れるから無し」

「そんなぁ……」


 しゅんと落ち込む様子には胸が痛いが、こればかりは仕方ない。普通の妹に戻ってもらうためにも、寝込みを襲われる可能性は減らすべきなのだ。


「じゃあ、美月はお兄ちゃんの向かいに寝る!」

「だめ、対角側に寝て」

「なんで?!」

「自分の胸に聞いてよ」


 彩音と公平ということで文句がないのか、ミクもニコニコと笑いながら布団の上へと移動してくれる。

 それを見た美月は不満は拭えなかったものの、仕方なさそうにとぼとぼと布団へ入った。


「じゃあ、おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」

「……おやすみ」

「おやすみ〜♪」


 それぞれが順番に挨拶を口にした後、リモコンを使って証明を真っ暗にする。

 少しするとどこからともなく寝息が聞こえてきて、莉斗もウトウトと夢の中へと吸い込まれていくのを混じた。……しかし。


「莉斗君、寝た?」


 意識が途切れる直前、耳元で聞こえた囁き声に振り返った瞬間、すぐそこにあった目と自分のとがバッチリ合って引き離せなくなってしまう。


「彩音さん?」

「2人とも寝たみたい。今がチャンスだよね?」

「な、何を……」

「決まってるじゃん。特別な場所で初めての夜、誰よりも先に莉斗君を味わっておかないと、ね?」

「ちょ、待って。2人とも近くにいるんだよ?」

「今更関係ない。それより、もう我慢できないの」


 モジモジとする彼女の瞳は、暗闇でもわかるほどの色気を含んでいて、ハァハァと聞こえてくる息遣いがその限界を表していた。

 こんな暗闇で彩音の思うままにされれば、声を我慢できるはずがないし、自分もリミッターが外れてしまうかもしれない。

 怖くなった莉斗は逃げようと彼女がいるのとは反対側に体を転がすが―――――――――。


「ふふ、捕まえた♡」

「はぅっ?!」


 何も見えないまま壁に進路を塞がれるのと同時に、後ろから抱きつかれて耳たぶをパクッと食べられた。

 そのまま唇でムニムニと揉まれたり、舌で優しく撫でられたり、歯で軽く噛まれたり。次々と刺激の種類が変わってゆく度、体の反応が激しくなっていってしまう。


「あや、ね……さ……んぁっ?!」

「しーっ。静かにしないとバレちゃうよ?」

「で、でも……」


 逃げ場のない危機感と暗闇という不安が、近くに人がいるという背徳感をよりなぶってきた。

 声を抑えるために布団を掴んでいた手は彩音によって掴まれてしまい、受け流す場所を失った感情は自分の中に溜まって爆発する。

 そうしているうちに気が付けば、莉斗は自分の口が自分のものでは無いかと思うほど自然に、理性を捨てた言葉を発していた。


「もっと……して欲しい……」


 その言葉を聞いた彩音は、しばらく一切の動きを止めてしまう。

 そして、彼が様子がおかしいと振り返ったところで、その唇に襲いかかるようなキスをした。


「はぁはぁ……嫌がってもやめてあげないから……」


 その夜、2人は一睡もしなかったそうな。

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