第98話 風呂に入る順番は前もって決めておくべし
「お風呂〜お風呂〜♪」
夕食後、みんなで少しバラエティ番組を見てから、そろそろお風呂に入ろうという話になった。
部屋に露天風呂がついているという贅沢は、しっかりと噛み締めなければならない。それを一人で満喫できるなんて幸せ者だなぁ。
「莉斗君も早く準備してよ」
「……ん?」
「いつも遅いんだから。女の子を待たせないで」
「いや、何を言って……」
「わかった! お兄ちゃん恥ずかしいんでしょ?」
彼はジリジリと迫ってくる3人に思わず後退りするが、右左正面と一瞬で取り囲まれて壁際へと追いやられてしまった。
「莉斗君も見たよね? ここのお風呂、家族全員で入っても余裕の広さなんだよ?」
「そう言われれば、全員で入るしかないわよね」
「それとも、お兄ちゃんは私たちとは入りたくないの?」
「っ……」
な、なんだろう……自分が危機的な状況にいると分かっているはずなのに、耳元や鼻先で囁かれるとものすごく興奮してしまう。
これは非常にに困った。もしも今の状態のまま脱衣場に連れていかれたりなんてしたら、何とか誤魔化せている下腹部のアレがモロバレしてしまうでは無いか。
「ほら、入ろ?」
「待って……」
「莉斗の背中洗ってあげるから、ね?」
「そ、そういうのはやっぱり良くないというか……」
「こんなにズボン膨らませて説得力ないよ?」
「ぶっ?!」
美月に例のブツに触れられた……というより、普通にグーで殴られてた。普通に何の悪びれた様子も無く、叩きつけるかのような勢いで。
そんな彼女は、莉斗が激痛に悶え苦しんでいるのをケラケラ笑いながら眺めていた。
いくら『お兄ちゃんが好き』なんて言っていても、虐めて楽しむ趣味は本物だから消えないんだね。我が妹ながら恐ろしい……。
「お兄ちゃんが弱ってる間に連れてこ?」
「……」
「……」
さすがに彩音とミクも言葉を失っている。というか、おそらく男が急所を押えて転げ回っているのを見るのが初めてなのだろう。
ミクの方は絶句というワードがピッタリくるほど引いているが、彩音の方は興味津々で魅入ってしまっているらしかった。
ビリビリの前科がある故、莉斗からすれば嫌な予感しかしない。これだけは絶対にしてはいけないことだと教えておかないとね。
「2人とも、お兄ちゃんと入りたいんでしょ?」
「「まあ、うん」」
「なら今しかチャンスはない! 脱衣所に連れ込んで脱がしちゃえばこっちのもんよ!」
「「なるほど!」」
美月の意見に力強く頷いた彼女らは、それぞれ莉斗の体を上下から抱え、美月の誘導に従いながら運び始める。
抵抗しようにもジンジンと痛みが続いて動けない。もはや彼一人後からではどうしようもなかった。
「た、助け――――――――――」
最後の力を振り絞って発した声は、ピシャッと扉を閉める音にかき消されてしまうのであった。
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