第96話 買ったお土産はその人の内面を表す

 旅館に到着してから少しした頃、少し遅い昼ご飯として仲居さんが軽めの食事を持ってきてくれた。

 それでお腹を7割くらい満たした4人は、時間があるということで売店を見に行くことにする。


汐音しのんさんへのお土産も買わないとね」

「お姉ちゃんにいらないって」

「そうはいかないよ。送ってもらったし、お土産ついでにASMRの実験台にでもしてもらえれば……」

莉斗りと君、それ本気で言ってる?」

「っ……じょ、冗談でございます……」


 今、彩音あやねさんからものすごい殺気を感じた。睨まれただけで腰が抜けそうになったよ。

 莉斗が心の中であたふたしていると、少し前を歩いていたミクからもさっきを飛ばされてしまう。

 軽いジョークのつもりだったけど、こういうことを言うのはもうやめよう。いつか刺されかねない。


「ねえ、お兄ちゃん?」

「どうしたの?」


 トコトコと歩み寄ってきた美月みつきに手招きされ、促されるまま耳を近付けると、彼女は他2人には聞こえないような声でこう言った。


「お兄ちゃんが選べるのは、この場にいる3人だけだよ?」


 それはつまり、3人の中なら何をしても文句は言われないが、他の人と関係を持ったと分かれば容赦はしないぞという意味。

 簡単に言えば社会的or生物学的、いずれかの死が待っているということだ。それだけは絶対に避けなくてはならない。


「でも、美月は候補に入ってないよ」

「……いつまでそう言ってられるかな?」

「妹だけはありえない」

「ふーん?」


 今はまだその時ではないのだろう。彼女は素直に顔を離すと、ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして売店へと入っていった。


「莉斗君も見に行こ?」

「あ、うん」


 彩音に手を引かれて入店した彼は、真っ先にお土産コーナーを見始める。

 汐音にはASMRに使えそうなものを渡せば喜んでくれそうではある。そう考えて、爪で叩くと耳触りのいい音が聞こえる木製の置物にした。

 母親には無難に饅頭を選び、気は進まないが夕美ゆみにもクッキーを買っておく。


「お父さんには何を送ればいいかしら」

「ミクのお父さんって何が好きなんだっけ?」

「私が送れば何でも喜んでくれるから……」

「じゃあ、このボールペンにしたら? 仕事でも使えそうだし」

「そうね、そうするわ」


 無事にミクの買い物も終わり、莉斗と彼女は親へのお土産を郵送してもらう手続きも済ませておいた。

 その間に彩音と美月も会計を済ませ、2人とも大量の箱を抱えて店から出てくる。


「彩音さん、何をそんなに買ったの?」

「お姉ちゃんの以外は全部友達にあげる分かな」

「……友達が多いって大変だね」

「美月も半分は友達用だよ」

「じゃあ、残りは?」

「部屋で食べる!」

「お菓子は太るから気をつけてね」

「太ったらお兄ちゃん連れてランニングするし」

「……先に没収しとこうかな」


 その後、食べてもいい量以外を没収しようとしたものの、必殺『おめめうるうる攻撃』をまともに食らった莉斗は、やむなく全て渡してしまうのであった。


「お兄ちゃんも食べる?」

「僕はいいかな」

「一緒に食べたいのに……」

「もう、‎わかったよ。食べるから」

「……ちょろい(ボソッ)」

「何か言った?」

「嬉しいなって言ったの♪」

「ほんとかなぁ……」

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