第88話 テストの日は目覚め方が大事

 目覚ましの音で目を覚ました莉斗りとは、横からの視線を感じて寝返りを打ち、そして目の前に現れた顔を見て「おわっ?!」という声を漏らした。


「み、美月みつき?!」

「お兄ちゃん、おはよ」

「いつからそこにいたの」

「んー、夜中の2時くらいかな」

「や、やめてよ。もう子供じゃないんだし」

「そんな嫌がらなくてもいいじゃんか」


 にんまりと笑いながら布団から出てこようとする彼女は、肩や鎖骨が露わになっている。

 彼はパジャマが見当たらないことに気付くと、慌てて妹を布団の中に押し戻した。


「ど、どうして裸なの?!」

「裸じゃないよ。肩出してるだけだもん」


 そう言って布団をめくった美月は、確かにパジャマを着ている。わざと上から4つ目までボタンを外し、着ていないように見せかけたのだろう。


「ドキってした?」

「……そりゃね」

「ふふ、作戦成功♪」


 ケラケラと笑う妹に朝からテンションが高いなと思いつつ、莉斗は着崩したパジャマをちゃんと整えてあげた。

 美月は不思議そうな顔をしていたものの、「風邪引くから、こういうのは程々にね」と言うとにっこりと笑って頷いてくれる。


「お兄ちゃん、今日からテストだよね?」

「うん。美月のおかげで目がぱっちりだよ」

「役に立てた?」

「そうだね、ありがとう」

「えへへ♪」


 こうして可愛らしく笑っていてくれれば、紛れもなく良い妹なことは間違いないんだけどなぁ。

 そんなことを思いながら布団から出ようとした彼は、布が一切見えない自分の太ももを見て慌てて足を引っ込めた。

 手で布団の中を探ってみると、寝る前にはしっかり履いていたはずのズボンとパンツが出てくる。


「……何かした?」

「自分の体に聞いてみたら?」

「そんなの分からないよ」

「安心して、寝てる間にしたりしてない」

「よ、よかったぁ……」

「ちょっと弄ったけど」

「それだけでアウトだよ?!」

「冗談だから、本気にしないでよ」


 一線を越えられていたなら、今すぐに病院に連れて行くことも考えたけれど、モジモジとしながら頬を赤らめているところを見るに、本当にしていないらしい。

 あれだけ強引なことをしておきながら、なんだかんだ恥ずかしがり屋なところもあるのかな。幼い頃の性格はなかなか抜けないんだね。


「既成事実作ろうとしてもお兄ちゃん逃げちゃうし、私のことを好きになってもらわないとかな」

「さすがに実妹を好きになったりしないよ」

「別に恋愛的な好きなんて言ってない」

「……え?」


 美月は莉斗にジリジリと近付きながら壁際に追いやると、壁に手をついて逃げ場を奪う。

 そして自分の胸を存分に押し付けながら、息がかかるような距離で囁いた。


「都合のいい女として、好きに使ってもいいんだよってコト♡」

「そんな、兄妹だよ……?」

「同じ家に住んでて自分を好きで、その上顔も体も悪くはないと思うんだけど。すごくいい条件じゃない?」

「そ、その気持ちには絶対に答えられないよ!」

「……待て」


 逃げようとしたものの腕を掴まれ、あっさりとベッドの上に押し倒されてしまう兄。

 そんな彼を愛おしそうに見下ろした妹は、寝起きだとは思えないほど濃厚なキスをした。


「はぁはぁ、美月もテスト頑張るから。お兄ちゃんも頑張ってね?」

「い、言われなくても……」

「美月がいい点数取れたら、ご褒美期待してるから」

「ご褒美って?」

「考えといてね♪」


 彼女はそう言ってベッドから飛び降りると、「遅刻するよ、急いで!」という言葉を残して出ていく。


「遅刻……ってもうこんな時間?!」


 その後、ダッシュしたおかげでテスト開始にはギリギリ間に合ったものの、美月のことで頭がいっぱいになり、全く集中できなかったそうな。

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