第86話 兄妹のカタチ

 あの後、結局部屋に入ってきた彩音あやねに止めてもらって事なきを得たものの、その後の夕食でも美月みつきは不満そうな顔をしていた。

 どうやら莉斗りとと『続き』をするというのは本気だったようで、食卓から出ていく際に「また今度襲うから」と耳元で囁かれてしまう。


「莉斗、どうかした?」

「い、いや、何でもないよ」

「そう? 何かあったら言いなさいよ。あんたの健康管理も私の仕事なんだから」

「そうだね、言えることは言うよ」


 その後、余計なことを言ったと後悔する前もなく追求され、「もしかして、こっちの悩み?」と指で輪っかを作って上下に動かすジェスチャーを見せてきたので、彼は「お、お風呂入ってくる!」と聞こえないふりをして立ち上がった。


「莉斗、待って。まだ大事な話があるの」

「だ、大事な話?」

鈴木すずきさんと話し合ったんだけどね、週間彼女計画はやっぱり―――――――――――」

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「まさか、こんな早く終わるとは……」


 週間彼女計画の終了が今週末だと聞かされた莉斗は、浴槽に浸かりながら壁を見つめていた。

 別にどんな形であれ彼女がいるということに喜びを感じていたわけではない。

 ただ、この計画が彩音かミクのどちらかを選ぶきっかけになると思っていたからこそ、彼は突然の最後に焦りを感じているのだ。


「でも、やっぱり2人とも大事だよ……」

『そんなの通用しないと思うけど?』

「それは分かって――――――――って美月?!」


 いつの間にか曇りガラスの向こう側に立っていた美月は、「お兄ちゃんは恵まれてるの」と言いながらスカートを足元に落とす。

 そして下着も外してしまうと、脱いだものをカゴの中へと放り込んでドアノブを捻った。


「でも、誰か一人に決めないといけない」

「ちょ、待っ、ダメだって!」

「お姉ちゃんか、あの女か……美月の誰かに」

「…………え?」


 莉斗がその言葉に目を丸くしていると、彼女はクスクスと笑いながら浴室に入ってきて後ろ手に鍵を閉める。

 そして軽く体を流してから兄のいる浴槽に足先をつけ、そのまま肩までゆっくりと浸かっていった。

 色白の脚、そして少し肉付きのいい太ももが水面に呑み込まれていく様子に魅入ってしまっていた彼は、妹の下腹部が視界に入った瞬間反射的に目を伏せる。

 だが、心臓の鼓動はどんどん早くなっていって、いくら妹だと言い聞かせても体は異性の裸を見た時の正常な反応を示していた。


「美月ね、お兄ちゃんのこと好きなの」

「ど、どうして……」

「本当はお漏らししたあの日、すっごく興奮した。小学生にして初めて快感を覚えたの」

「そんな……僕のせいで?」

「違う、お兄ちゃんのだよ?」


 彼女はとろんと蕩けた瞳で莉斗を見つめると、「ずっとお兄ちゃんと快楽を共有するきっかけが欲しかった」と言って首筋にキスをしてくる。


「お兄ちゃんが美月で感じてくれるの、すごく嬉しかったの」

「僕は嬉しくないよ。だから、やめて?」

「大丈夫、妹の体を知れば求めたくなるから」

「で、でも、そんなの……」


 腰の上に跨ってくるのを必死に止めるも、そんなのお構い無しに抱きついてきた美月は、もう限界とばかりに息を荒くしながら兄の上に腰を下ろした。


「安心して、この国は近親相姦を合法にしてるし」

「へ?」

「ダメなのは結婚だけ。13歳以上の行為はいいの」

「けど、こういうのは合意じゃないと……」

「何言ってるの、お兄ちゃん」


 莉斗には彼女が何を言っているのか理解できなかったが、本気だということは伝わってきた。

 美月は中3、つまり14歳。兄妹でも結婚をしたければ大丈夫。拒める理由の内残っているのは、合意ではないというものだけだったのに。


「妹が合意なら、兄の声なんて誰も聞かないよ♡」


 興奮した声で「それに、入っちゃえば理性も吹っ飛ぶし」と囁く狂った妹に、彼はもはや諦めることしか出来なかった。


「美月、だから優しくしてね?」

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