第84話 幼馴染とカノジョ
「失礼するわよ」
夕方、レジ袋を提げてやって来たミクは、キッチンにいた
「な、何やってるの?」
「何って……
「それは私の仕事よ、取らないでもらえる?」
「ミクちゃんはただの幼馴染、今は私が彼女なんだけど」
「それでもここだけは譲れないわ」
ミクは莉斗の家の食費の3分の1を支払っている。誰が作ろうとここで食べることにはなるのだ。
もしも本物の彼女だとしたら身を引くが、現状諦めるつもりは微塵もない。
そんな強気な姿勢で彩音をじっと見つめていると、彼女は以外にもあっさりと料理をやめた。
「……はぁ、分かった。今日は帰る」
「えっ」
「どうしてそんな驚いた顔するの? ミクちゃんが許してくれないんでしょ」
「いや、だって……もう少し抵抗すると思ったもの」
「今日は勉強で疲れたから、もうそんな元気ないよ」
身に付けていたエプロンを外し、丁寧に畳んで机の上に置く彩音。
ミクは立ち去ろうとする彼女の背中を見た瞬間、思わず呼び止めてしまった。
「ま、待って!」
「まだ何か用があるの?」
「……もうスープは完成してるのよね? 作った本人がこの場にいないわけにはいかないし」
「それって……」
「一緒に食べてもいいわよ。莉斗もダメとは言わないでしょうし」
真っ直ぐに目を見つめながらそう言って、やっぱり恥ずかしくなったのかぷいっと顔を背けてしまう彼女。
その仕草が何だか面白くて、彩音は堪えきれずに笑みをこぼした。
「ど、どうして笑うのよ!」
「だって私たちは敵なんだよ? 優しくしてくれるなんて面白いなって」
「私にだって良心があるもの。それに、ただの幼馴染で料理をしに来るのもおかしいから……」
「……ミクちゃん」
彩音からすれば、あれは自分がここに残るために放った抵抗の一言なのだが、思っていたよりも傷つけてしまったらしい。
いくら恋敵と言えど、人を傷つけて喜ぶ趣味は持ち合わせていない。莉斗へのビリビリは例外として。
「毎日作れるわけじゃないし、私が彼女の週でも来れない時はミクちゃんにお願いしようかな?」
「鈴木さん……」
「というか、先週莉斗君に触れられなくて思ったんだよね。どっちかが我慢しなきゃいけないって、かなり辛いなって」
「それは私も今日1日だけで感じたわ。好きな人が目の前にいるのに触れられないのは、どうにかなりそうだったもの」
「「…………」」
2人はお互いに頷き合って、週間彼女計画の終了期限を決定した。公平性を保つために、今週末までは彩音を莉斗の彼女とし、その翌週からはこの計画を廃止すると。
「そうと決まれば、今週は存分に楽しまないと」
「テスト勉強だけは莉斗にさせてもらうわよ?」
「あ、それで思い出した。今朝『温泉旅行』だとか言ってなかった?」
「っ……」
「もしかして莉斗君と2人で行くつもり?」
「り、莉斗の母親から言われてるのよ。そうなるに決まってるでしょう?」
「
「そ、それは……あの子は連れていくけど……」
「なら4人になっても問題ないね♪」
にっこりと笑いながら迫ってくる彼女に、ミクは早速後悔し始めているのだった。邪魔されないように温泉旅行までは週間彼女計画を残しておけばよかった、と。
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