第80話 我慢は毒というより爆弾

「ちょっと、何してるの?!」


 扉を開けて飛び込んできたのはミク……ではなく彩音あやねだった。

 彼女は「こんなもの……」と呆れたように呟くと、驚く夕美ゆみの手から細長いソレを奪い取る。


「私の莉斗りと君に手出さないでくれる?」

「ふふ、彼女は鈴木すずきさんの方だったんですね」

「っ……それが何か?」

「いえ、なんでもないです♪」


 あまりにもあっさりと身を引き、「では、また」と言い残して去っていく彼女に、彩音も莉斗も思わず拍子抜けしてしまった。


「え、ちょ、これは?!」


 握ったままのソレを返すために追いかけようとするも、今閉まったばかりの扉は何故か開かない。

 よくよく観察してみれば、ドアの隙間から微かに反対側にある金具が覗いていた。あれですぐに鍵をかけられたらしい。


『鈴木さん、聞こえてますか?』

「……ん?」


 どこからともなく聞こえてくる声にキョロキョロと辺りを見回すと、部屋の隅にカメラとスピーカーがあるのが見えた。

 声は間違いなく夕美のものであるし、初めから莉斗なり2人セットなりで閉じ込める予定だったのだろう。


『予定では新谷しんたにさんが来るはずだったんですけどね。まあ、作画資料としては問題ないのでいいでしょう』

「……作画資料って何のこと?」

『鈴木さんは知らないと思いますが、莉斗さんにBL漫画のアイデアを出すために手伝ってもらっていたんですよ』

「び、BL……ってまさか?!」

『安心してください、そこまでは至ってませんから。ふふ、まだ指が2本ほどです♪』


 例え直接的な行為に至っていないとしても、莉斗の初めてが穢されたことに変わりはないのだ、

 彩音は落ち込むあまりその場に膝をつくと、余力を振り絞ってカメラをキッと睨みつける。

 しかし、夕美は飽きるまでケタケタと笑い続けた後、『今回はあなたの手で、お願いしますね?』と言った。


「な、何をさせる気なの?」

『手に持っているものを穴に入れるだけですから』

「こ、これを?!」


 彩音は驚いた声を漏らしつつ、ソレを恐る恐る触ってみる。形としては先端に行くほど細くなってはいるが、先っぽは当たっても痛くなさそうだ。

 想像に反して意外にも柔らかく、横から押したりすれば少し曲がる。ある程度の柔軟性はあるらしい。


『あ、ローションを使ってくださいね。無理に押し込むと壊れちゃいますから』

「ど、どうしてもやらなきゃダメ……?」

『監禁状態のあなたに拒む権利があるとでも?』


 分かってはいたものの、怖がる莉斗を見るとズキンと胸が痛んだ。

 それでもやらなくては出られない。彩音は「すぐに終わらせるから、ね?」と声をかけながらローションを塗ると、細長いソレを穴に向けて垂直に突き立てた。


「あ、彩音さん……やめ……」

「ごめんね、私もこんなことしたくないんだよ?」

「ならやめて、電話で助けを呼ぼうよ!」

「……ううん、それは出来ない」


 彼女はゆっくりと首を横に振ると、まるでこの状況を楽しんでいるかのように舌なめずりをして見せる。そして。


「莉斗君がビクビクしてるところ、見てみたくてどうしようもないの♡」


 放置され続けて溜まりに溜まった感情を発散するように、思いっきり差し込んだのだった。

 彼のお尻―――――――に固定された、黒ひげ危機一髪型のビリビリグッズの穴に。細長くて柔らかいプラスチック製の剣を。


「んぅぅぅ?! い、痛い……ビリビリが痛い……!」

「莉斗君、すごくいい顔してる。彩音さんにもっと見せて? ほら、出したり入れたりしてあげるから」

「や、やめ……あぁっ?! もう無理だよぉ……」

「ふふふ、これは構ってくれないお仕置だから。ローションのおかげですごくスムーズにズボズボ出来ちゃうね?」

「あやね……さ、ん……」


 それから五分後、満足した夕美の『もういいですよ』と言う声も彩音の耳に入らず、莉斗が開放されたのはビリビリグッズの電池が切れた頃らしい。


「もう終わり? まだ物足りないのに」

「ふぁ……はぅ……んん……」

「まあ、莉斗くんが壊れちゃいそうだから勘弁してあげようかな」


 彼女はそう言ってプラスチックの剣を莉斗のお尻の上に置くと、最後に涙とヨダレで濡れた顔を愛おしそうに見つめ。


「ビリビリは浮気じゃないし……莉斗君のためにもっといいモノ、用意しといてあげるね♪」


 心底愉快そうにそう呟いて、既に開いていた扉から出ていってしまった。

 残されたあられもない姿の莉斗がミクによって発見されたのは、それから15分後のことになる。

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