第77話 幼馴染の秘密は兄も知らない

「ご馳走様」


 手を合わせてから3人分の食器を流しへ運んでくれるミク。

 美月みつきはそんな彼女について洗い物を手伝い始める。相変わらずミクにだけは素直だ。


莉斗りと、お風呂入ってきていいわよ」

「僕は後でいいけど……」

「洗い物が時間かかりそうだから、時短よ時短。それに私と美月ちゃんが入る前に洗濯機回しちゃうから」

「そっか。いつもありがとう」

「いいのよ、気にしないで」


 もう一度「ありがとう」と口にして、キッチン兼食卓を出ていく莉斗。

 その後ろ姿を見送ってから、ミクはハヤシライスのソースがついた食器をサッとゆすいでから食洗機に入れた。


「年季の入ってる食洗機だからか、こうしないとたまに汚れが取り切れないことがあるのよね」

「……」

「ん? どうかした?」


 美月がじっと見つめてきていることに気が付いた彼女は、顔に何か付いているのかと頬を触ってみる。

 けれど、ソースがついていたりすることはなく、なら何を見ているのかと不思議そうに首を傾げた。


「ねえ、ミクお姉ちゃん」

「なにかしら」

「お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好きなの?」

「そうね、大好き…………って、ふぇ?!」


 どうして気付いたのかと言わんばかりに驚く様子に、美月はやっぱりかと苦笑いする。

 どうやらずっと前からバレバレだったらしい。それも、2人が仲直りするよりも前から。


「美月、知ってるよ。月末にしか会いに来なくても、毎日窓からお兄ちゃんのこと見てたの」

「そんな……まるで私が変態みたいに……」

「望遠鏡で星でも眺めるのかと思ったら、一眼レフだったこともあったし」

「べ、別に撮ってないわよ?!」

「半年前、お姉ちゃんの部屋でUSBメモリを見つけたんだけど……」


 その言葉にミクは「無くなったと思ったら……」と小声で呟いてから、「中身見たの?!」と美月に詰め寄った。


「見たから持って帰ったんだよ?」

「うぅ、もしあんなの莉斗に知られたら、せっかく仲直りしたのに全部終わっちゃうよぉ」

「さすがの美月もちょっと引いたもん」

「だ、だよね……」


 そのUSBの中身というのが、月イチで会う時に服の中に隠し持っていたボイスレコーダーで録音した莉斗の声と、それを切り貼りして『ミク、スキダヨ』と少し歪な告白にしたもの。

 さすがに捨てようと思っていた矢先に、部屋に置いていたはずのものが消えてしまったのだ。


「ま、まだ持ってるの?」

「勝手には捨てられないから」

「一生のお願い! 莉斗には何も言わずに捨てて!」

「……お姉ちゃんの頼みだから聞いてあげたいんだけど、タダでってのは虫が良すぎるよね?」


 その脅し文句のようなセリフに、恐怖でミクの体がビクッと跳ねる。

 いつの間にこんなずる賢い子に育ったのだろうか。いや、もしかするとUSBを盗んだ時から計画されていたなんてことも――――――――――。


「お、お金はそんな払えないわよ……?」

「大丈夫、お金じゃないよ。お姉ちゃんにとっては、ものすごく簡単なことだから」


 美月の「お兄ちゃんのことが大好きなお姉ちゃんなら、ね?」という意味深な言葉で、全てを察せてしまった自分が怖かった。

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