第46話 甘い香りは人の心まで甘くする

「目的地って……ここ?」

「そうだよ」

「……スイーツ店、だよね?」


 美月みつきに連れてこられたのは、何の変哲もないスイーツ店。可愛らしいメニューと内装をしていて、いかにも女性向けという感じがした。


「とりあえず入るよ」

「あ、ちょっ?!」


 莉斗りとが男子禁制な空気に躊躇っていると、強引に腕を引かれて店内へと引きずり込まれてしまう。

 ドアに付いたベルがカランコロンという音を奏で、こちらに気付いた店員さんが「何名様ですか?」と聞きながら近付いてきた。


「2人です」

「姉妹ですか?」

「はい♪」


 関係を聞いてくるなんて変な店員だと思いつつ、案内された席へと腰掛ける。

 気持ちが落ち着いた頃に周囲を見回してみれば、この店にある席は全て2人掛けになっているらしいことが分かった。


「この店、2名以下専用のお店なんだよ」

「随分と変わってるね」

「ほら、ここ見て」


 美月が財布からカードのようなものを取り出して、その裏に書いてあるものを見せてくる。

 どうやらこの店のスタンプカードらしいが、一体なんの関係があるのだろうか。


「このお店、日曜日限定の2名様専用特別メニューっていうのがあるんだよね」

「日曜日……ってことは今日?」

「そう。その内容がさらに変わってて、連れとの関係で出されるスイーツが変わるの」


 そう言われてカードを確認してみると、既に押されているスタンプに重ねるように『友達』『恋人』『幼馴染』と書かれてあった。

 その関係の相手とは既に一緒に来て、限定メニューを食べたということだろう。


「……って、恋人?!」

「ああ、それは友達に嘘ついてもらっただけ。前に話したでしょ、美月に変なあだ名つけた男子」

「よくそんな人と一緒に来れたね……」

「まあ、元々仲はいい方だったし。あだ名の件もほとぼり冷め始めてるから」

「じゃあ、僕をイジめる理由も――――――――」

「それは続けるに決まってるじゃん」


 ……残念だが仕方ない。妹の壁はそう容易く崩せるものでは無いということだろう。

 莉斗は短くため息をつきつつ、半分諦めた心持ちでメニューに目を落とした。


「あれ、兄妹ってカテゴリーもあるよ?」

「兄妹はブルーベリーパイだから、美月は別に食べたいと思わないかな」

「なるほどね」


 なら姉妹の方は何なのか。そう思って見てみると、確かにこちらは別腹が喜びそうなメニューだ。


「特製パンケーキ、美味しそうだね」

「でしょ?」

「でも、恋人で嘘をつけるなら、ミクにお姉ちゃんのフリをしてもらえばよかったのに」


 莉斗がふと浮かんだ疑問を口にすると、美月は呆れたような表情でゆっくりと首を横に振る。そして。


「お兄ちゃ……じゃなくてお姉ちゃんにもパンケーキを食べさせてあげたいっていう、複雑な妹心が分からないものかなぁ」


 そんな優しい言葉を告げられた彼は思わず「え?」と声を漏らし、しばらくの間妹を見つめたまま固まってしまった。

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