第45話 自由のない選択肢
「ど、どうしてこんな……」
「あはは、すごい似合ってるよ♪」
まさか
「女々しいだけあって違和感ないね」
「そ、そんなこと……」
「ヒョロいとは思ってたけど、こんなにも女物の服がピッタリだとは。もうお兄ちゃんだと思えないよ」
「っ……」
「ふふ、お姉ちゃん♪」
「違うよぉ……」
出来ることならすぐに脱いでしまいたいけれど、美月が時折チラつかせるスマホが恐ろしくて行動に移せない。
けれど、まさかこれ以上酷いことはしてこないだろうからもう少しの辛抱で終わるはず。
そう思っていた彼は、次の美月の一言で思わず「えっ」という声を漏らした。
「じゃあ、姉妹でお出かけしよっか」
あそこまで暴走した夕美でもしなかったことを、妹は平気でやってのけてしまうのである。
「待って、それだけは……」
「反抗しちゃうんだ?」
「……し、しません」
「うむ、よろしい♪」
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「っ……っ……」
「オドオドし過ぎ。もっとしっかり歩いてよ」
「そんなこと言われても……」
「もしかして女装で興奮した?」
「ち、違うよ!」
美月は莉斗の下腹部をチラッと見ると、「確かに違うみたいだね」とつまらなさそうに呟いて視線を前へ戻す。
「別に誰も気付いてないよ」
「ほんと? 思いっきり男なのに」
「ひとついい事を教えておいてあげる」
彼女はそう言って莉斗の前に立ち、彼の胸ぐらを掴んで自分の顔へ引き寄せる。そして唇が触れそうな距離でにんまりと笑った。
「今のお兄ちゃん、めちゃくちゃ可愛いから」
「か、かわっ……」
「ノーマルの私でも、鳴かせたくなるくらいにね?」
「っ〜〜〜?!」
美月は瞬く間に耳の先まで真っ赤にした彼から手を離すと、短くため息をつきながら目的地へ向けて歩き始める。
莉斗も荒くなりかけた息を整え、調子を元に戻してからすぐに後を追いかけて隣に並んだ。ただ、初めよりも少し体を前かがみにしてはいるが。
「……ふーん、女装ではしなくても、妹に迫られたら興奮するんだ?」
「こ、これは違うよ!」
「なら、お兄ちゃんは自分の妹に女としての魅力がないって言いたいわけ?」
「そういう意味じゃないけど……」
「妹で興奮したのか、美月に魅力が無いのか。どっちかはっきりして」
後者を答えたとすれば、彼女は傷ついたと言ってあの音声を母親に送るかもしれない。そう考えると選択肢はあってないようなものなのだが……。
「……キモっ」
仕方なく回答を口にした瞬間、ガチ引きした目で見れながら数mほど距離を取られたことは言うまでもない。
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