第35話 朝から元気な彩音さん

「りーとーくん! あーそーぼ!」


 朝9時頃、土曜日だからと遅い時間までベッドに甘えていた莉斗りとは、窓の外から聞こえてきた声で目を覚ました。


「み、美月みつき?!」

「……ちっ」


 体を起こそうとして、自分にまたがろうとしている妹の存在に気がついたが、彼女は軽く舌打ちをするとベッドから飛び降りて出ていってしまう。

 休みだから一日中イジメようとでも思っていたのかな。想像しただけで恐ろしいよ。


「りーとーくん!」

「ああ、そうだった……」


 莉斗は急いで窓を開けてベランダに出ると、少し乗り出しながら道路の方を覗いてみた。

 すると、声の主もこちらに気が付いたようで、満面の笑みで手を大きく振ってくれる。


彩音あやねさん、どうしたの」

「せっかくのお休みだよ、遊びに行こう!」

「今日は家でゆっくりしたい気分なんだけど……」


 彼の言葉を聞いてしゅんと肩を落とした彩音は、ポケットから財布を取り出すと、中から四角い小さな袋のようなものを取り出して足元にポイと捨てた。


「うわ、こんなところにゴムが落ちてる! これはきっと長篠ながしの家の長男のやつだ!」

「ちょ、何言ってるの?!」

「相手は隣の家の幼馴染かな? あー、昨晩もやる事やったのか。だから疲れてるのかなー!」

「ご近所に勘違いされるからやめて!」

「ベランダから部屋行き来できるもんね、毎日2人でよろしくやっちゃって―――――――――」

「うん、遊びに行こう! 今すぐ行こう!」


 これ以上あらぬことを叫ばれては困る。その一心で莉斗がOKすると、彩音は「ふふ、待ってるね〜♪」と微笑みながら拾い上げた袋を財布にしまう。


「……彩音さんって意外と強引なんだね」


 部屋の中に戻った彼は精神的にどっと疲れが来たからか、少しの間座り込んで動く事が出来なかった。

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「おまたせ」

「待ってないよ♪」


 急いで着替えをして家を出た莉斗は、お決まりのセリフを口にする彩音の横に並んだ。

 普通は男が言うことのような気もするけど、このご時世あまり気にする必要も無いだろう。


「どこに遊びに行くの?」

「莉斗君はどこがいい?」

「彩音さんが行きたいところかな」

「本当にそれでいいの?」

「僕はいいけど……」


 やけに念を押してくる様子に彼が首を傾げると、彩音は肩がけのポーチから先程の財布をちらりと見せながらにんまりと笑った。


「私に任せると、これが必要になっちゃうけど?」

「っ……そ、それってつまり……」

「ご想像におまかせします♪」


 はっきりとは言ってくれないものの、その中身が必要になるということはつまりそういうことになる。

 莉斗も健全な男子高校生として相応の好奇心と性欲を持ち合わせてはいるものの、ついつい癖で一線を超えてはいけないといストッパーをかけてしまった。


「し、ショッピングモールがいいです……」


 不満そうに「莉斗君がいうなら……」と頷いた彩音の表情を見て、彼が後々猛烈に後悔したことは言うまでもない。

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