第34話 純と不純は紙一重

「付き合ってるって証明してくれよ」


 そう言われてしまった彩音あやねは、気まずそうに莉斗ひとを見た。

 ここにおける証明にはいくつか方法がある。互いに口頭でそう言い合うか、友達以上であることが分かるようなハグをするか、もしくは熱いキスを交わすか。

 しかし、そのどれもが人前でするにはハードルの高い上に、そもそも2人は恋人同士ではない。それを考慮すれば一番お手軽な口頭で済ませるのが堅実だろう。


「莉斗君……す、好きだよ」

「ぼ、僕も好き……」


 相思相愛アピール、これをすれば疑いの目を向けてくる2人も黙ってくれるはずだ。

 そう確信して真唯まいの顔を見た彩音は、彼女の一言で愕然とした。


「……いや、早く証明してくれよ」

「え、今したよ?」

「言葉にするだけって、そんなの誰でも出来るだろ」


 雪菜ゆきなにまで「もっと特別なことしないとね〜♪」と言われてしまい、サクッと済ませることが出来なくなってしまう。

 この危機的状況に何かが吹っ切れたのか、彩音は莉斗の肩を掴むとそのままマットの上へ押し倒した。


「莉斗君、やるよ」

「待って、一旦ハグを試してからに……」

「そんなので許してくれるわけないじゃん! 友達と言えど2人に取られるのは嫌だし、今だけは私のものになってくれない?」


 真剣な目でそんなことを言われてしまえば、莉斗が断れるはずもない。

 彼は「わかった、任せるよ」と瞼を下ろし、軽く唇を突き出す。準備完了のサインだ。

 それを見た彩音はチラッと真唯たちの方を振り返ってから、「行くよ」と声を震わせつつ思い切って唇を重ねる。

 すごく温かくて柔らかくて、心の中にポタリと液体を垂らしたかのように、高濃度の幸福が胸いっぱいに広まっていく感じがした。


「はぁはぁ、彩音さん……」

「はぁはぁ、莉斗君……」


 互いに顔を真っ赤にして肩で息をする。キスは初めてではないはずなのに、こんなにもドキドキするのはどうしてなのだろう……。


「すごくよかったよ、彩音さん」

「莉斗君の唇も気持ちよかったよ」


 自然と感想を口にしてから、恥ずかしくなって2人とも顔を背け合う。

 そんな2人を眺めていた真唯と雪菜は、再度顔を見合わせてから安心したようにため息をついた。


「悪かったな、こんな強引な方法にして」

「実は私たち、あやちゃんのことが心配だったの〜」


 そう言った2人の話によると、最近『彩音が男と2人でよからぬ事をしている』という噂が流れているらしく、その真偽を友達としてどうしても確かめたかったらしい。

 しかし、今の2人の照れ具合を見る限り、初心さが残っていて純粋な交際だと頷けたんだとか。


「友達の彼氏を取る趣味はないからな。長篠ながしのだけは狙わないでおくよ」

「それじゃ、2人ともごゆっくり〜♪」


 勘違いをさせたまま出ていってしまった2人に、彩音は「普段がアレだから、逆に純なキスが恥ずかしいだけなのにね」と苦笑いする。

 そして、ねっとりと舌なめずりをした後、彼の目を心底愉しそうに見下ろした。


「秘密の不健全なこと、しちゃおっか♥」

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