第32話 努力の成果

 莉斗りとが熱を出した日から3日が経過した。

 彼は相変わらず彩音あやねからも美月みつきからも舐められ、昼も夜も体が休まる時間が無いような生活を送っている。


「莉斗、疲れてるの?」

「ちょっとだけね」

「そ、そんな時に悪いとは思ってるんだけど……」


 そしてまさに今、莉斗はミクの部屋で耳を狙われていることに気がついた。しかし、彼女ならこういう時はちゃんと遠慮してくれるから安心だ。


「今日だけはどうしても舐めさせて欲しいの」


 ……いや、前言撤回。こういう日に限って、何故か引き下がってくれそうにない目をしている。

 しかし、莉斗はもうくたくただ。今日は2度も強引にされているから、夕方にもというのは帰宅部には少しハードすぎるからね。


「ごめん、明日にしてくれない?」

「だめ、今日がいい」

「わがまま言わないでよ」

鈴木すずきさんとは昼休みにしてたじゃない」

「まさか見てたの?」

「ぐ、偶然見かけただけよ!」

「偶然であの場所は見つけないと思うけど」


 今日彩音に連れていかれたのは、いつもの体育倉庫ではなく別棟にある空き教室だった。

 別棟自体調理実習や実験が無ければ立ち入ることは無い上に、あの階にそういう教室は入っていない。

 つまり、何か目的があって立ち入らなければ、昼休みに空き教室で莉斗を見つけることは無いのだ。


「ち、違うの! あの場所はカップルの密会に使われてるって聞くじゃない、私はそんな淫らな行為を阻止するために……」

「じゃあ、ミクも今度一緒に行こっか」

「行くー!」

「……あっさり画面剥がれたね」


 期待の眼差しを向けてくる彼女に「ごめんね、冗談だから」と伝えて宥め、不満そうに膨れさせた頬を優しく撫でてあげる。


「ミク、ずっと見てたの?」

「……そりゃ、好きな人が他の人に喘がされているのよ? 興奮す……いえ、悔しいじゃない!」

「今興奮するって言いかけたよね?」

「そんなことないわ」

「本当かなぁ」


 怪しいものの証拠を出せと言われても出せないので、余計なことを言ってしまう前に莉斗は話を元に戻した。

 今の彼が一番気になっているのはことは、やはりこれなのだ。


「どうして今日は外せないの?」

「そ、それは……」

「熱を出した日の夜にも沢山したのに、もう我慢できなくなった?」

「違うわよ、私はそんな変態じゃないわ。ただ、なるべく早く試してみたくて……」


 モジモジとするミクに「試すって何を?」と聞いてみると、彼女は「教えてもらったの、耳舐めの仕方」と紙を見せてくれる。

 そこには見覚えのある顔写真と、その人物がダミーヘッドを舐めるシーンが貼り付けられていた。

 どうやら教えを乞うた相手は『しののん』こと鈴木すずき 汐音しのん、彩音のお姉さんらしい

 。


「この前、鈴木さんに制服を貸す代わりにって、教えてもらえるように約束を取り付けてもらったの」

「あの人はもうプロだもんね」

「ええ、すごく上手だったわ。耳に舌が入ってくる感覚が気持ちよくて―――――――――」

「……ミク、耳舐めされたの?」

「か、体で覚えなさいって言われたんだもの! でもそれ以上はしてないから安心して?」

「それ以上って?」

「っ……もぅ、バカ」


 ミクは耳まで真っ赤にすると、軽く莉斗と胸にパンチしてからぎゅっと抱きついてきた。


「少しは上手くなったから、莉斗に早く喜んでもらいたいの」

「……わかった、ミクのために頑張るよ」

「ふふ、ありがとう♪」

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