第31話 新鮮さは新たな感覚を呼び覚ます

「私の目に狂いはありませんでしたね」

‎「うぅ……」


 結局、熱のせいで上手く抗えない莉斗りとは、されるがまま女装させられてしまった。

 自分の頭から伸びた髪が肩にかかる感覚や、太ももがスースーする感覚など、新鮮な体験に胸がドキドキしてしまう。

 しかし、これは決して女装で興奮しているわけではなく、あくまでも初めてに対しての緊張なのだ。


「その恥じらう表情、堪らないです♪」

「あ、あまり見ないで……」

「こちらはどんな感じですかねぇ」

「ちょ、パンツはダメだよ!」


 顔に向けて構えていたカメラを、今度はスカートの中に突っ込もうとしてくる夕美ゆみに、莉斗は慌てて裾を押さえて隠す。


「いいじゃないですか、パンツくらい」

「男物なら平気だよ。でも、今履いてるのは……」

「リボン付きの可愛いやつですもんね」

「言わないでよぉ……」


 からかわれる度に顔の熱さが増しているような気がした。もはや熱のせいなのか恥ずかしさのせいなのかも分からないほど。


「ちなみにそれ、私の使用済みなので」

「えっ?!」

「ふふ、冗談ですよ。って、どうして下腹部を押さえてるんですか?」

「な、何でもないよ……」


 目線を泳がせながら後ずさりする莉斗に、その意味を理解してにんまりと微笑んだ夕美が歩み寄る。

 そして、そのまま背後のベッドに押し倒すと、彼の腰の上にまたがって両手で恋人繋ぎをした。


「写真よりも記憶に焼き付けた方が良さそうですね」

「ま、待って……やっぱりやめよ?」

「どうしてですか?」

「えっと、熱が伝染っちゃうし……」

「伝染せば治るといいますし、それなら看病の範疇ですよね」

「も、もう熱が下がってきた気がする。だから看病はいらないよ」

「そうなんですか? これで思う存分出来ますね♪」

「そ、そうじゃなくてぇ……」


 思うように説得できなかった莉斗は必死に首を振って抵抗するも、「本当に女の子にされてもいいんですか?」とスカート越しに股間を踏まれ、痛みのあまり唇を許してしまう。


「んぅ……」

「ふふ、初めから大人しくしていれば痛い思いをしなくて済んだんですよ?」

「い、痛いのはもういやだよ……」

「それなら私の言う通りにしてください」


 躊躇うことの無い支配によって完全に主導権を握られ、彼はもう涙目で頷くことしかできなかった。

 しかし、そんな時に耳元で甘く囁かれてしまえば、条件反射で体に電気が走ったような感覚に襲われ、脳がこの状況を楽しめと命令を発信し始める。


「莉斗さん、すごく可愛いです」

「うぅ、恥ずかしいよ」

「もう完全に女の子、莉子りこちゃんですね」

「僕男なのに……」

「男の子はそんな切なそうな顔で息を荒らげたりしませんよ?」

「そ、そんなこと言われても……」

「女の子としてのご褒美、欲しくないんですか?」


 そう聞かれた莉斗がしばらく悩んだ挙句、「……欲しい」と答えたことは言うまでもない。

 そしてその後、夕美に暗記している限りの官能小説を耳元で読み聞かせられ続け、その間の彼はずっと可愛らしい声で鳴きながら体を跳ねさせていたんだとか。


「これからも作画資料役、お願いしますね♪」

「も、もう勘弁して……」

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