第29話 子供の頃に一度は経験したことがあるよね

 翌朝、莉斗りとは本当に熱を出すことに成功した。と言ってもネットに書いてあった方法を試したわけじゃない。

 原因はあの後ミクと汗だくになるまで舌を絡めたり、耳を舐められ舐め返したりしてそのまま寝落ちてしまったことだろう。


「どうせどこかの誰かとイチャイチャしてたんでしょ。ほんと情けないお兄ちゃん」

「……ごめん」

「病気伝染されたくないから、今日はおもちゃにはしないであげる。さっさと治してよ」


 美月みつきはあくまで冷たい口調でそう言うと、くるりと背中を向けて部屋を出ていった。

 すごく嫌われているみたいだけど、病人には優しくしてくれるんだね。それならずっとこのままでもいいかもしれない。


「莉斗、帰ってきたら看病してあげるから」

「気にしないで。僕のために休ませる訳にはいかないもん」

「休み時間になったら電話するから」

「忘れないようにちゃんと出るよ」


 心配そうにベッドの傍に引っ付いていたミクも、「そろそろ行くね」と言い残して学校へと向かった。

 彼女も初めは自分も休むと言って聞かなかったのだが、莉斗が話しながら咳き込む演技をすると「私がいると酷くなるのね……」と諦めてくれたのだ。

 幼馴染として胸が痛まないわけではないが、これはリアルBL展開を回避するため、そして自分のお尻の安全を守るためには致し方ないこと。


「熱が治ったらミクに謝らないと……」


 そんな独り言を呟いて、彼はゆっくりと瞼を下ろした。

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「……ん?」


 莉斗が次に目を覚ました時、彼は大きな違和感を覚える。目を開いても視界が開けない、目隠しをされているのだ。

 仰向けだったはずの体はいつの間にかうつ伏せになっており、膝だけを立てて顔を枕に埋める体勢になっている。


「……あ、あれ?」


 目隠しを取ろうとすれば腕が自分の方に引き寄せられず、ただ金属のぶつかり合う音が聞こえるだけ。

 足首の方にも同じ感触がある辺り、両手足を拘束されてしまったらしかった。


「莉斗さん、起きましたか?」

「っ……ゆ、夕美ゆみさん?!」


 見えないものの、声だけで誰かわかる。莉斗は犯人が夕美だと理解すると、この状況と昨日の彼女の台詞とが繋がった気がした。


「ど、どうやって家の中に……?」

「幼馴染の方と一緒に居たの妹さんですよね? 暇な時に読む本を届けに来たと言ったら、あっさり鍵を渡してくれましたよ」

「なんでそういう時だけ疑わないの……」

「いい妹さんがいるようで微笑ましいです♪」


 そう言いながらクスクス笑う声が近付いてくる。夕美は抵抗出来ない莉斗のズボンを半分下ろすと、片手でお尻を撫でつつポケットから何かを取り出す。


「私、今度BL漫画で看病するシーンを描こうと思ってるんです」

「それで熱を出して欲しかったの? でも、何のためにズボンを……」

「ふふ、解熱のお薬ってどこから入れるのが一番効くか知ってますか?」

「……え、まさか……?」


 全てを理解して怯え始める莉斗に、「しっかりお尻を突き出してくださいね」と腰を支えながらパキッとお薬を容器から出す彼女。


「抵抗しなければ痛くはしませんから、ね?」

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