第26話 優しい言葉の返事が優しさとは限らない
「み、見たんですか?」
「見たというか、見えちゃったかな……」
「正直、私は莉斗さんに本の説明をしながら、BLチックなことばかり妄想していました」
「そ、そうだったんだね」
「引きましたよね。すみません、変な女で……」
軽く下唇を噛みながらそう呟いた彼女は、「もう来なくて大丈夫ですから」と莉斗をカウンターから追い出そうとする。
しかし、その瞳の縁に光る何かを見た彼は、反射的に彼女の手を強く握っていた。
「別に変なんかじゃないよ!」
そう口にしながら無意識に前に歩み出ると、それにつられて夕美は一歩後ずさる。
それを繰り返しているうちに、2人は気がつけばカウンター奥の司書専用スペースに入ってしまっていた。
ここなら人目に触れることは無い。そう理解したのか、それまでオドオドしていた彼女も少しだけ本性を見せてくれる。
「莉斗さんでBL妄想して興奮してるような女ですよ? それでも気持ち悪くないですか?」
「あまり実感が湧いてないだけかもしれないけど、少なくとも今の僕は何とも思ってないかな」
「……本当ですか?」
「やっぱり嘘かも」
「っ……」
「だって、僕もあの絵でドキドキしちゃったから」
その告白はつまるところの、互いの性癖の一致を確かめ合うものだった。
もちろん莉斗がリアルBL好きだという意味ではなく、強引にいじめられるというプレイにおいての話ではあるが。
「やっぱり私の見立て通り、莉斗さんはドMだったんですね!」
「べ、別にそう言うわけじゃないけど……」
「そう言うなら試してみますか?」
「……へ?」
夕美はニヤリと笑うと自分と向き合っていた莉斗の体を反転させ、お尻を突き出す形で壁に両手を着けさせる。
そして制服のシャツをズボンから出して捲ると、後ろから抱きしめるようにしながら露わになった背中に頬ずりしてきた。
「な、何をしようと……」
「これから莉斗さんをいじめます。時間制限まで立ったままでいられたら、ドMじゃないってことにしますね」
「も、もしも立ち続けられなかったら?」
「その時は私の秘密を知った罰として、一つ責任を取ってもらいます」
莉斗が「責任って?」と聞き返すも彼女はそれには答えず、近くの机の上に置いたスマホのタイマーを動かし始める。
「さすがに私ではBLのようには出来ないので、少し苦しめのやつでいきますね」
夕美はそう言うと彼の下腹部に腕を回し、ギューッと強く締め付けた。
これだけならば単に膀胱辺りが苦しくて痛いだけなのだが、同時に背骨に沿って舌を這わされれば話は変わる。
「んぃっ?!」
「あっ♥ すごく苦しそうですね?」
下腹部がビクッと体を跳ねさせようとするも、締め付けられているせいでその反応が押さえ込まれてしまい、行き場を失った快感による違和感と矛盾が脳に直接刺激を送ってきた。
今にも暴れてしまいそうなほどの快感を運動エネルギーに変換できないということは、それが別の何かに向けて放出されるということなのである。
「あぇっ……んにっ……!」
「莉斗さん、今すっごくだらしない顔してますよ?」
締め付けられる度、舐められる度、脳みそがおかしくなりそうな感覚に全身がビリビリと痙攣した。
こんなことを続けられて正気を保っていられるはずがない。莉斗はそう思いながら、机の上のスマホに虚ろな視線を向ける。
「……え、残り48分?!」
「ふふふ、誰も昼休み中に終わるなんて言ってませんよね?」
「そ、そんなのだめだよ……」
「もうイケナイコトしちゃってるんですよ? もうひとつくらい重ねても問題ありません♪」
してやったりとばかりに満足げな表情で、ねっとりと舐め上げられた最後の一撃。
絶対に勝てない賭けだと理解した諦観からか、彼はその瞬間に膝から崩れ落ちてしまう。
「私の勝ちですね」
「んぁ……あぅ……はぁはぁ……」
「あらあら、ビクビクしちゃって可愛いです♥ でも、しばらくは立てそうにありませんね?」
夕美は『本借りたいんですけどー!』という声に「はーい」と返事をしてから、倒れている莉斗の耳元で震え上がるような一言を呟くのだった。
「この程度でその様子だと、責任を取ってもらったらおかしくなっちゃうかも知れませんよ♪」
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