第21話 された方は覚えている

『さっき送ったやつ、どうだった?』

「すごく良かった」

『やっぱり? 最近自分でも上手くなってると思ってるんだよね』


 夜、『今日は学校で出来なかったからその代わり』と彩音あやねから送られてきたASMRの感想をRINEで伝えていた。

 それが終わると同じものをもう一度聞き直し、程よく体が疲れてきたところでそろそろ寝ようかとスマホを置く。そんな時。


 コンコン


 ドアをノックする音で動きを止めた彼は、「お兄ちゃん、入るよ」と言う声に「いいよ」と答えた。

 美月みつきがこんな時間に来るなんてかなり珍しい。勉強で分からないところでも見つかったのかな。

 呑気にそんなことを思っているうちにこちらへ歩み寄ってきた彼女は、ポケットから取り出したスマホでいきなり音声を流し始めた。


『もっとたくさん聞かせて? もっともっと私の舌で感じて欲しいの』

『んぁっ……も、もうだめぇ……』

『んふふ♪』


 初めは何か分からなかった莉斗も、しばらく聞いていると段々思い出して顔が熱くなっていく。

 それは昨晩、彼が部屋に侵入してきた彩音に襲われた時の音声なのだ。

 美月は既に寝ていると思っていたが、まさか起きていた上に録音までされているとは予想もしていなかった。


「お兄ちゃん、昨日ここに女の人入れてたよね」

「そ、それは……」

「今朝迎えに来た人、この音声とそっくり」

「っ……」

「言い逃れできないよ、この変態」


 そう冷たく言い放った美月は、大音量で再生したままスマホをベッドの上に放り投げると、そちらに意識が向いた隙を狙って莉斗に覆い被さる。


「み、美月……?」

「お母さんに報告されてもいいの?」

「それだけは……」

「なら美月の言うこと聞いて」


 まだ状況を理解出来ていない莉斗。美月はそんな彼の服を強引に脱がせた。


「抵抗したらお母さんに送るから」


 淡々とそう告げた彼女は、強引に莉斗の腕を上げさせるとその脇を見て「へぇ」と声を漏らす。


「お兄ちゃん、毛生えてないんだ?」

「僕、毛が生えてこない人だから……」

「そうなんだ。その方が都合いいけど」

「み、美月……っ?!」


 美月はそう言うと莉斗の脇を下から上へと舐め上げた。さっきまで彩音のASMRを聞いていたせいで、少し汗ばんでいる脇を綺麗にするかのように丁寧な舌使いで。


「お兄ちゃん、覚えてる?」

「な、何を?」

「友達の前でお兄ちゃんに脇をくすぐられて、美月がお漏らししちゃったこと」


 そう言えばそんなこともあった。しかし、それは今からもう5年も前の話だ。

 今さらなんのためにそんな昔話を持ち出してくるのか、莉斗には理解できなかった。


「あの時はまだ小学3年生、だけどすごく恥ずかしかった」

「これはその時の復讐ってことなの?」

「そういうこと」


 美月は一度脇から顔を離すと、反対側の脇へ移動しながら獲物を眺めるような目で莉斗を見た。


「美月が男の子にからかわれてどれだけ辛かったか、お兄ちゃんには分からないよね」

「ご、ごめん……」

「最近、その男の子が『オシッコ垂れ子』ってあだ名を思い出しちゃってさ」

「美月、お兄ちゃん謝るから……」

「土下座しても許さないよ。やっと掴んだお兄ちゃんの弱みなんだから」


 莉斗は体が痙攣するまで脇を舐め回され続け、満足した美月はベッドから降りると振り返りざまにスマホの画面を見せつけてくる。


「これからずっとお兄ちゃんは美月のおもちゃだから。ゆっくり時間をかけて壊してあげるね」


 そう言い残して部屋から出ていった。

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