第17話 真夜中の断罪人

 ミクと久しぶりに夕食を共にしたその日の夜、ベッドの軋む音で目を覚ました莉斗りとは、暗闇の中で人影が自分に股がっているのを見た。

 彼は驚きのあまり「ひっ?!」と声を漏らすが、その人影に「静かに」と言われ口を噤む。


「そんなに驚かないで、私だから」


 聞き覚えのある声に目を凝らしてみると、そこに居る人物の顔が見えてきた。彩音あやねだ。


「ど、どうやって家の中に……?」

「ごめんね、勝手に抜き取っちゃった♪」


 彼女がそう言って見せてくるのは、無くしたはずの家の鍵。保健室から怒って帰った後、莉斗がいない間にカバンの中を漁ったのだろう。


「なんでこんなことしたの?」

「……まだわかってないんだね」


 彩音はそう言いながら彼の頭を優しく撫でる。


「昼の続きがしたくて、こっそり出てきたの」

「っ……もう怒ってないの?」

「怒ってたよ。でも、仕方ないのかなって。莉斗君は私のものじゃないし」

「そっか――――――――って、まだ?」


 聞き返す莉斗に彩音はにんまりと笑うと、「私のものになるまで許してあげないから」と囁いて右耳を舐めた。


「はぅっ?!」

「声我慢しないと妹ちゃんに聞こえるよ?」

「っ……」


 そう言われて莉斗は口を手で塞いだ。美月みつきはすぐ隣の部屋で寝ている。

 夜中に女の子が部屋に忍び込んできているなんて知られたら、思春期の妹から変な目を向けられることになりかねないのだ。


「頑張って我慢してね?」


 彩音はからかうように吐息混じりに囁くと、躊躇なく舌を穴の中へ滑り込ませる。

 急な強い刺激に体がビクンと跳ね、思わず「んぁっ」という大きめの声が漏れた。


「ちょ、声出したらダメだってば」

「ご、ごめん……」

「もう、仕方ないなぁ」


 謝る莉斗に首を捻った彩音は、「こうすればいいかな」と頷くと左手で彼の口を塞ぐ。

 これなら本人が出したくても出せないだろう。


「ふふ、たくさん我慢して私無しじゃダメな体にしてあげる♪」

「っ……?!」

「まだ舐めてないのにもうビクッてした。やっぱり莉斗君はドMなんだね」


 違うと否定したいのに声が出せない。そんな状況が自分の体を悦ばせていることを感じた莉斗は、抵抗することをやめてその事実を受け止めた。


「そうやって認めればいいの。私の足を舐める日も近いかもね」

「っ〜〜〜!」

「んぅ、可愛い鳴き声だよ♥」


 彩音は自分の下腹部を押さえながら、舌を耳の穴に入れたり出したりを繰り返す。

 その度に伝わってくる莉斗の体の反応と、口の中に篭もる喘ぎ声がどうしようもなく愛おしかった。


「もっとたくさん聞かせて? もっともっと私の舌で感じて欲しいの」

「んぁっ……も、もうだめぇ……」

「んふふ♪」


 どんどん熱くなっていく体温を感じながら、口を塞ぐことも忘れて舐め続ける彩音。

 いつの間にか自分の息の方が荒くなっていることに気付いた彼女は、莉斗の目を見つめながら「我慢出来なくなりそう」と顔を近づけていった。


「ま、待って……」

「ごめんね、莉斗君♥」


 欲望の制御が効かなくなった彩音は、「少しだけだから、ね?」と莉斗の唇に自分の唇を重ねる。

 その柔らかさと幸福感だけでも莉斗は頭がおかしくなりそうだと言うのに、彼女はまだ満足出来ないらしかった。


「っ……?!」

「んぁ、これしゅごい♥」


 莉斗の口の中へ強引に舌を突っ込むと、彼の舌と絡め合って唾液の温度を同じにしてしまう。

 唇が離れる頃には莉斗は体のビクつきを押さえられないほどになっていて、彩音はそんな彼をぎゅっと抱きしめながら囁くのだった。


「初キス、両方とも莉斗君にあげちゃった♪」


 莉斗と彩音は互いに幸せそうに微笑むと、限界を迎えたのか体を重ねたまま眠りに落ちてしまう。

 彼らはこの時気付くことが出来なかったのだ。すぐ近くで聞き耳を立てている者が2人もいたということに。

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