第16話 互いの距離の見つけ方

 あれから莉斗りととミクは、それぞれの家についての近況報告のようなものをし合った。


「私の方はお父さんのおかげで生活費に困りはしないけど、相変わらず一人の時間が長いわ」

「僕も美月みつきとは最近会話してないかな。食事中もずっとスマホ見てるし」


 2人は「寂しいね」「そうね」と微笑み合うと、少し無言の時間を挟んでからどちらからともなく「これからは一緒に……」と言い始める。


「美月もミクが来れば喜ぶと思うから」

「それならお邪魔しようかしら」


 そんな感じでこれからの付き合い方を決めていく中、初めはベッドの端と端に座っていた2人は、心の距離が縮まるにつれて体の距離も縮めていった。


「み、ミク……」

「……莉斗」


 家に来てからの30分間、それは互いの心地よい間を探すようにあくまで無意識に行われたもの。

 彼らは肩が触れると同時にビクッと身を引いてから、目で会話しつつ今度は顔を突き合わせた状態で近付いた。


「ねえ、ひとつお願いしてもいい?」

「どんなお願い?」

「それはね――――――――」


 ミクは少し照れたように笑ってから、ベッドの中央に移動させた莉斗にぎゅっと抱きつく。

 そのまま彼の腰に両足を回すと、わざと自分が下になるようにしてゴロンと寝転がった。


「私も莉斗にして欲しいの」

「っ……」


 毎回押し倒されている莉斗は、そうなるように仕向けられたとはいえ、ミクの体を自分の体が覆うようにしている状態に胸が高鳴るのを感じる。

 いつも支配される側にいたのに、今回は自分が彼女を支配するのだ。こんな立場の逆転、興奮しないわけがなかった。


「少し痛くても我慢するから」

「わかった、今日は僕が気持ちよくしてあげる」


 そう言いながら彼女の首に口を近付けると、吐息が吹きかかっただけで指先がビクンと跳ねる。

 「いくよ?」と確認を取ってからカプッと甘噛みした瞬間、ミクの口から聞いたこともないような『女』の声が漏れた。


「ミクもここ弱いんだね」

「い、言わないで……」


 恥ずかしがって顔を隠そうとする手を掴み、少し荒々しくベッドに押さえつける。

 彩音にされたことを思い出しながら、ミクが一番感じる状況を探し出して躊躇なく責め続けた。


「や、だめ……こんなの……」

「ミクってもしかして、されるのは初めて?」

「うぅ、莉斗以外とするわけないでしょ……」


 離れている間はずっと真面目な表情しか見せなかった幼馴染が、自分によってこんなにも体を火照らせている。

 目の前の光景は莉斗を昂らせ、責めれば責めるほど互いが互いを強く求め合うようになった。


「はぁはぁ……美月、そろそろ家に着くみたい」

「そ、そう。なら私たちも出た方がいいわね」


 舐めるという行為は性行為と違って果てがない。

 つまり、どれだけ体が求めようとも一線を越えることだけはしない2人には、延々と互いを興奮させ続けることしか出来ないのだ。


「もう3時間も経ってる」

「さすがに疲れたわね」


 故に果てらしい果てが訪れるのは、どちらかの体力が切れた時になる。

 今日は攻めと受けの交代という新鮮さがあったおかげか、こんなにも長時間続けられてしまった。


「ほら、ネクタイが乱れてるわよ」

「ありがと……」

「美月ちゃんに疑われても困るでしょう?」


 丁寧に莉斗の服装を整えてくれたミクは、「ふふ、新婚さんみたいね」なんて言って微笑んでから、手を繋いで部屋から出る。


「……」

「ん? どうかしたの?」

「いや、可愛いなって思っただけ」


 ポロッと口にしてから恥ずかしそうに口元を隠す莉斗に、一瞬で耳まで真っ赤にした彼女は顔を背けながら脇腹を肘で突いた。


「いきなり変なこと言ってごめん」

「ううん、大丈夫」


 慌てて謝る彼にゆっくりと首を横に振ると、ミクは心から嬉しそうに微笑んでから消え入りそうな声で呟いた。


「……あ、ありがとって思っただけ」

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