第15話 将来の2人を見据えて
あれから5、6時間目は
落ち込んでいるところへやってきたミクは、「一緒に帰るわよ」と彼の手を引いて教室を出た。
「
「不機嫌というか無表情かな」
「なかなか厄介そうね……」
ミクからすれば、強い敵が居なくなったのだから喜ぶべきところのはずなのだが、それでも悩んでくれているのは優しさゆえだろうか。
それとも、保健室で言っていたことが本気だからなのか。本当のところは莉斗にも分からなかった。
「……あれ?」
「どうしたの?」
家の前に到着してカバンを開いた彼は、中身をよく探してみてから首を傾げる。
中身を全部出して確認しても、あるはずの家の鍵が見当たらないのだ。
「これじゃ家に入れないよ」
「
「部活で遅くなると思う」
美月というのは中学2年生の莉斗の妹だ。思春期だからか最近はあまり甘えてくれなくなり、兄としては少し寂しい時期である。
「探してくる」
「どこを?」
「登下校ではカバン開けてないし、教室を探せば見つかるよ」
そう言ってくるりと背中を向ける莉斗を、ミクは「待って」と腕を掴んで引き止めた。
「どうしたの?」
「美月ちゃん、夕方には帰ってくるんでしょう?」
「多分そのはずだけど……」
「学校で落としたなら、明日の朝にでも先生に聞けばいいのよ」
彼女はそう説得しながら自分のカバンから自宅の鍵を取り出すと、莉斗の目の前でゆらゆらと揺らしながら首を傾げる。
「今日は私の家で時間を潰さない?」
「それってつまり……」
「わ、私だって普通の話は聞きたいのよ? 最近の莉斗のこととか知りたいし……」
そう言いながら頬を赤らめるミクに、つい変なことを考えてしまっていた莉斗も顔が熱くなるのを感じた。
「ごめん、つい……」
「ふふ、お昼は中途半端に終わらせちゃったもの。話の後にちゃんとしてあげるわよ」
「あ、ありがと」
ミクは恥ずかしそうに俯く彼の手を取ると、「今日はお父さん、遅くまで帰って来ないの」と言いながら家に向かって歩き出す。
彼女の家は父親のみの片親世帯で、その父親も夜遅くまで帰ってこないことが多いのだ。
「ミクってほぼ一人暮らしみたいなものだよね」
「そうね、食事も一人で食べてるし」
「よくグレなかったね」
「好きな人が隣に住んでるのに、そんなこと出来ると思う?」
その言葉に嬉しそうに頬を緩ませた莉斗。ミクはそんな彼ににっこりと笑った後、腕をグイッと引っ張って耳元に口を寄せる。
そして小悪魔的な微笑みを浮かべながら、舐め上げるような甘い声で囁いた。
「まあ、男の子を連れ込もうとはしてるけどね」
「っ……」
「莉斗ならお父さんも信頼してくれてるから、心配する必要は無いわよ」
「でも、おじさんを裏切ることになるし……」
不安そうに呟く莉斗にため息をついたミクは、「もうとっくに手遅れでしょう?」と強引に玄関前まで連れていくと―――――――――――。
「耳を舐めるくらい可愛い行為よ。結婚すれば子供だって作ると思えば、ね?」
――――そう言って意味深に首を傾げて見せた。
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