第14話 穴埋めだけでもいいから

「み、ミク?! どうしてここに……」


 莉斗りとがそう言うと、ミクは静かにしてとジェスチャーしながら顔を寄せてきた。


「気分が悪くて隣のベッドで休んでたの。だから全部聞いちゃった」

「それなら寝てないとダメだよ」

「莉斗を見たら元気になったから大丈夫よ」


 彼女はそう言いながら莉斗の上に跨ると、愛おしそうに蕩けた瞳で見下ろしながら片手でリボンを解く。

 それから第三ボタンまで開くと、あえて胸元を見せつけるようにしながら舌なめずりをした。


「まだ満足出来てないんでしょ?」

「そうだけど……」

「躊躇うのは私が嫌いだから?」

「そ、それは違う!」

「じゃあ好きなの?」

「……まだ分からない」


 つい最近まで彼女とは距離があった。今も完全に受け入れ切れたわけではなく、莉斗は自分の気持ちすら把握出来ていない状態なのだ。


「私は無理に一人に絞らなくてもいいと思ってる」

「……え?」

「だって、今決められちゃったら私に勝ち目がないでしょう?」


 ミクはぎこちなく苦笑いを浮かべた後、「だから今のうちに昔の関係に戻りたいの」と言いながら莉斗の首筋にキスをする。


「少し大人になった昔の関係、だけどね」

「っ……ミク……」


 彼の知っている幼馴染の顔はそこには無く、好きな人の温もりを求める『女』としてのミクがいた。

 彼女はまだ不慣れな舌使いで反応を確かめつつ、刺激に悶える莉斗を見て愉しむように目を細める。


「本当は想いを伝えてる私を一番に見てほしい。でも、鈴木すずきさんとの楽しみを邪魔しておいてそんなこと言えないから……」


 舌の動きだけは止めずにそんなことを言うミクに、莉斗は「ごめんね、優柔不断で……」と謝ると、彼女は小さく首を横に振った。


「私たちには心の距離を埋める時間が必要なのよ。だから、しばらくは2番目でいいわ」

「……2番目?」

「鈴木さんを優先してってこと」


 ミクは一度顔を離すと、「私はまだ実力不足だから」と微笑んで見せる。

 莉斗はすぐに「そんなことないよ」と言ったものの、彼女の「じゃあ、どっちが気持ちいいの?」という質問には押し黙ってしまった。


「さっきみたいな感じで、鈴木さんと関係が終わったら嫌でしょう?」

「……うん」

「私じゃまだ莉斗を満足させられない。そのせいで欲求が爆発して浮気されたら困るもの」


 ミクは「しばらくは鈴木さんに任せるだけ。上手くなった暁にはしっかり奪いに行くわよ?」と言ってクスリと笑う。


「その日のためにも、この昼休み中はたっぷり練習させてもらうから」

「ど、どうぞ……」

「ふふ、いただきます♪」


 彼女は嬉しそうな表情で両手を合わせ、再度首筋にカプっと噛み付いた。

 歯型は残るものの加減がしっかりとされていて、痛みが心地よい刺激となって伝わってくる。

 ミクはそのまま舌を這わせながら上へ移動すると、左耳の穴の中へと突っ――――――――――。


「莉斗君、随分と楽しそうだね?」


 ――――――――――――込まなかった。

 ミクはこのタイミングで彩音が現れることを知っていたかのように取り乱すことなく、「邪魔しないでもらえる? 今は私の時間よ」とため息をついた。


「私にしてもらえないから、すぐにミクちゃんに乗り換えるんだ?」

「そ、そういう訳じゃ……」

「莉斗君ってほんと浮気性だね」


 彩音は呆れたような表情を見せると、「謝るなら考えようかと思ったけど、やっぱりいいや」と背中を向ける。


「もう許してあげないから」


 そう冷たく言い放って、彼女は立ち去ってしまう。莉斗とミクはしばらく見つめ合った後、「「ほ、本気っぽいね……」」と頭を抱えるのであった。

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