第13話 特別を求めてしまう心

 あれから10分間、彩音あやねは跳ね震えよがり続ける莉斗りとの体を押えながら、一秒の休憩も与えることなく右耳を刺激し続けた。


「ふふ、いつもより苦しそうだね?」

「だってぇ……」

「体操服だから興奮しちゃう?」

「……うん」


 彼の反応が激しいのはそれだけが理由ではない。

 いつもと違う場所であること、そしてすぐ近くに人がいる緊張感。そういう新鮮さがさらに莉斗の感覚を刺激していた。


「あ、あまり手首を押さえつけないで……」

「痛いの?」


 その質問に小さく頷く彼ににんまりと笑った彩音は、右耳の近くに顔を寄せてからかうような口調で囁く。


「でも、それが気持ちいいんだよね?」

「っ……」

「莉斗君はドMなのかな〜?」

「ち、違うよ!」


 慌てて反論してくる彼の起き上がりかけた上半身を、彩音は抱きつくようにして再び寝かせる。

 そしてわざとらしく胸を押し付けながら、右耳たぶを口の中に含んだ。


「はぅっ?!」

「無理矢理されてるのにそんな可愛い声出ちゃうの?」

「こ、これは違くて……」

「何が違うのかな〜?」


 きっと彩音は本当にミクとのことを嫉妬したのだろう。いつもより激しく、追い詰めるように、そして彼の心を弄ぶように。

 今日の彼女の声色や口調から、莉斗は自然とそういう風に感じていた。もちろん責め方からもだ。


「莉斗君は私にいじめられるのが好きだもんね?」

「っ……」

「私とあの女、どっちの方が気持ちいいの?」

「うぅ、そんなの答えられないよ」


 彩音にはテクニックがあって、まるでこちらの限界を知っているかのようにギリギリを味あわせてくれる。

 ミクはテクニックこそないものの、自分のものと言わんばかりの激しさ、そして何より真っ直ぐな好意が背徳的な快感を与えてくれた。


「……へぇ、決められないんだ?」


 しかし、彩音の求めている答えは一つだけ。曖昧なものでは納得ができないらしく、不満そうにふいっと顔を背けて莉斗から離れてしまう。


「私だって答えてくれたら続きしてあげたのに」

「……」

「まあ、莉斗君にはどっちかなんて無理か。責められたら誰にでも懐いちゃいそうだし」

「うぅ、ごめんなさい……」

「謝らないで、初めから分かってたことだから」


 彩音はそう言いながらベッドから降りると、乱れた体操ズボンをパンパンとはたいて綺麗に直した。どうやらもう終わりらしい。


「今日はこれくらいにしよっか」

「……わかった」

「じゃあ、先に戻ってるね」


 彼女はどこか寂しそうな表情で軽く手を振り、そのまま振り返らずにカーテンの隙間から出ていった。

 莉斗は胸にチクリと刺すような痛みを感じつつも、目の前の欲望に飛びつかなかったのは間違いじゃないはずだと、心の中で自分に言い聞かせる。


「莉斗は真面目すぎるのよ」


 そろそろ教室に戻ろうと立ち上がったその時、背後からそんな声が聞こえたかと思うと、突然腕を掴まれてベッドへと引き戻された。


「み、ミク?!」


 振り返った先には、唇の前でしーっと人差し指を立てているミクの姿があった。

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