第12話 上書きセーブ
4時間目の体育が始まってすぐのこと。先生がバスケのシュートフォームを教えている途中に、
「
「す、少しお腹が痛くて……」
少し離れたところに座っていた
『保健室と男女の組み合わせ、いいと思わない?』
あの時はいきなりどうしたのだろうと思ったが、今ならそれがこのための合図だったとわかる。
「誰か、保健室まで連れて行ってあげてくれ」
「ぼ、僕が連れていきます!」
だから、彼は周りの生徒から二度見されることも気にせず、自ら名乗りを上げたのだった。
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「……」
「……ふんっ」
それから約40分後、莉斗は授業が終わるなりすぐに保健室へと足を運んだ。理由は彩音に謝るためである。
「ごめん、
実は彼が名乗りを上げた時、もう一人立候補した人がいたのだ。それが中澤という男子生徒である。
サッカーのスポーツ推薦で入ってくるほど運動神経が良く、おまけにイケメンで頭もいい。
そんな彼と莉斗とを見比べた先生は、「
「でも、仕方なかったって言うか……」
「駄々を
「みんなに笑われちゃうよ」
彩音がこんなにも不貞腐れているのは、単に予定通り2人で授業をサボれなかったからではない。
莉斗の代わりに付き添いで来た中澤くんに問題があるらしかった。
「莉斗君知らないの? 中澤君が色んな女子に手出してるって噂」
「僕、そういうの疎いから」
「あいつ、支えるふりして胸触ろうとしてきたんだよ?」
「む、胸を……」
莉斗は思わず彩音の体に視線を移してしまい、顔が一気に熱くなる。それと同時になにかモヤモヤしたものを感じた。
「もしかして想像しちゃったの?」
「し、してないよ」
「本当は?」
「……した」
見透かされてさらに赤くなる様子をニヤニヤと笑いながら眺めていた彩音は、彼の頬をうりうりとしながら聞く。
「嫉妬しちゃってる?」
「そう、なのかな……」
「ふふ、安心していいよ。触られる前にビンタしてやったから♪」
なるほど、だから中澤くんは体育館へ戻ってきた時、ずっと右頬を押さえてたんだね。
莉斗がその光景を思い出しながらホッと胸を撫で下ろしていると、いつの間にか彩音の顔がすぐ目の前まで迫っていた。
「やっぱり嫉妬してくれたんだ?」
「っ……」
「私もね、莉斗君のコレに嫉妬してるんだよ?」
彼女はそう言いながら、昨晩ミクに付けられたキスマークを指で撫でる。
口紅などではなくアザのような形で残ってしまっているため、しばらくは消えそうにないのだ。
「私だけが気持ちよくしてあげたいのに」
「だめ、隣のベッドに人が……」
「カーテン閉まってるから、莉斗君が声我慢すればバレないよ」
彩音は意地悪な笑みを浮かべると、莉斗の腕を掴んで強引にベッドに引きずり込む。
そして薄っぺらいカーテンに囲まれた2人だけの空間で、右耳に優しく息を吹きかけるのだった。
「私があの女の上書きしてあげるね♪」
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