第10話 長篠家の管理者
「……さて、どういうことか話してもらえる?」
放課後、
もしも目撃者が知らない生徒なら誤魔化しきれたかもしれないが、運悪く莉斗のよく知る人物だったのである。
「どうもこうも、私は莉斗君とイチャイチャしてただけで……」
「あなたに聞いてないわ、莉斗に聞いてるの」
女子生徒は机をバンと叩くと、まるで取調べのように懐中電灯の光を当ててくる。
莉斗は眩しさに眉を八の字にしつつ、固く閉ざされていた口をようやく開いた。
「ミクには関係ないよ」
「関係ないことないわよ。おばさんからあんたのことを任されたのは私なのよ?」
心底不満そうにため息をつく彼女は、
それ故に、ひとり親で長期出張の多い母親の代わりに、我が家の健康管理やら成績管理やらは彼女に託されているのだが――――――――――。
「その割に会いに来るのは一ヶ月に一度だけじゃん」
「そ、それはあんたが来るなって言うから……」
「母さんとの約束ならならそれでも来るでしょ」
彼女は学校ですれ違う時も、帰る時間が同じになった時も話しかけてこず、決まって毎月の30日か31日にしか言葉を返さない。
莉斗からすれば、それでよく管理していると言えるなと思わざるを得ないのだ。
「この部屋からあんたの姿も見えるし、わざわざ話しかける必要なんてないと思ってるだけよ」
彼女の言う通り、莉斗の家は新谷家のすぐ隣に位置している。
窓からベランダに出ればすぐ近くに莉斗の部屋のベランダがあるため、確かに言葉自体は何も間違ってはいなかった。
「2人が知り合いだってのは分かったよ。でも、どうして私まで連れてこられたの?」
「決まってるでしょ、莉斗と変なことしてたからよ」
「変なことって何?」
「そ、それは……」
初めは置いてきぼりになっていた彩音も、状況を理解するといつもの明るい声色を取り戻していく。
そして質問に対してミクが動揺した瞬間、彼女はここぞとばかりに莉斗に引っ付いた。
「もしかして、これのこと?」
「っ……彩音さん……ひ、人の部屋で……」
「私たちのこと、見せつけてあげないとね?」
右耳元で甘く囁かれ、幼馴染の部屋だからと我慢しようとしても、すぐにリミッターが外れてしまう。
体育倉庫でされたように耳たぶを刺激され、抑えたくても体が勝手にビクビクと跳ねた。
「や、やめなさいよ……」
「ふふ、やめませーん♪」
初めてみる幼馴染の異様な光景に、ミクは思わず後ずさりしてしまう。
それでも視線は決して逸らせず、気持ちよさそうな声が耳に入ってくる度、自分までも何かに刺激されているような感覚を覚えた。
「莉斗君は私が気持ちよくしてあげてるの。だから、部外者は邪魔しないでくれる?」
「そ、そんなこと言われても……」
「莉斗君がいくら私に喘がされても、新谷さんの管理に影響はないと思うけど?」
「っ……そうね、わかったわ」
ミクは俯きがちにそう言うと、スっと立ち上がって部屋の扉を開ける。
「出て行っていいわ、もう止めたりしないから」
息を吹きかけられながら声を堪えていた莉斗も、相変わらず触れられない左耳から、幼馴染の異変を感じ取っていた。
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