第7話 ハジメテの左
「ど、どうして勉強を?」
「だって、お姉ちゃんいるから……」
しかし、本人は余裕の表情で彼女を見つめ返すと、口元をにんまりと緩める。
「お姉ちゃんが居ると困ることでもあるのかにゃ?」
「っ……別にないけど」
「本当かなぁ〜?」
汐音はそう言いながら莉斗に近付くと、ロリ体型とは思えないほど色気のある表情で舌をちろっと出して見せた。
「なら、お姉ちゃんが練習台にしてもいいよね?」
「い、いいよ……」
躊躇いながらもOKを出した彩音に、莉斗は胸がチクリと傷んだ。拒んでくれると思っていたのは、単なる自分の傲慢だったのだろうか……。
「ふふ、なら遠慮なく……♪」
熱い吐息が右耳に吹きかけられ、背筋がぞくりとする。彩音のものとは微かに温度の違うそれに、莉斗は何の抵抗も出来ず―――――――――。
「ま、待って!」
「うぐっ?!」
舌が触れそうになる直前、彩音が汐音の口を手で塞いだ。突然引き離された彼女は少し驚いていたものの、目を細めると何やら口をもごもごと動かす。
「んっ、お姉ちゃ……んぅ……」
突然艶っぽい声を漏らし始める彩音の様子に、間に挟まれた莉斗は何が起こっているのかを察した。
何かを堪えるように震わせる肩と、時折下腹部を押さえながらビクッと跳ねる体。汐音は彩音の手のひらを舌で撫でているのだ。
「ぷはっ……やっと離してくれた……」
「お、お姉ちゃんが変なことするからでしょ」
「いいって言ったのはアヤちゃんじゃん」
「そうだけど―――――――――み、右耳はダメ」
視線を逸らしながら照れたようにそう言う彩音に、汐音が「どして?」と理由を尋ねると、彼女はスっと莉斗の右耳に顔を寄せながら言った。
「右耳だけは私専用だから……」
言い終えると同時に、ふぅと息を吹き込まれる。莉斗は自然と心の中で『これだ』と呟くと、安心感からか無意識に彩音に寄りかかる。
「莉斗君は私のものじゃないもん。左耳は他の子のために置いとかないといけないから」
どこか不安そうな声色で話した内容に、莉斗はそれが昨日の疑問の答えだと気が付いた。
彩音が右耳にしか触れてくれないのは、意地悪や感情を昂らせる作戦なんかではなく、いちクラスメイトとしての遠慮だったのだ。
「じゃ、じゃあ……僕が左耳もお願いしたら?」
「莉斗君が私のものになるならいいよ?」
「彩音さんのものになるって……?」
要するに彼氏になるということだろうか。それとも肩を揉んだり家事をしたり、家政婦のような働きをする存在に―――――――――――――。
「私の足を舐めてもらう」
―――――――――いや、もっと酷かった。
「そ、それはちょっと……」
「まあ、私だけのものになっちゃったら、憧れの『しののん』にしてもらえなくなるもんね?」
「……へ?」
莉斗は彩音の言葉で気が付いた。話に夢中になっていたせいで気配を感じなかったが、汐音がいつの間にか左耳のそばまで顔を寄せていたのだ。
「ふふ、いっただきまーす♪」
「っ〜〜〜?!」
その後、免疫ゼロの左耳への過度な刺激によって、莉斗がしばらく意識を失う事になったのだけれど、それはまた別のお話。
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