第107話<それぞれの冒険>

重症を負いゴーレムから逃げ延びたセトだったが、休む間も無く次の戦いは始まる。


下の階層ではスキルを奪われた魔物達が、仲間を集め待ち構えていたのだ。


勿論魔物達の目的は、セトへの報復である。


上階には攻撃の効かないゴーレム、目の前には種族の垣根を越え徒党を組んだ魔物達。


「そんなの卑怯でしょ……」


辛うじて人である意識を保つセトの表情は、驚きで眼を開き。


自分がしてきた事を省みない言葉を呟いても、魔物達は待ってはくれない。


其れでも魔物と化したセトは、飛び交う魔物達の攻撃を避け。


進化した爪や牙で攻撃、確実に魔物の数を減らしていく。


次第に消耗していく体力や魔力を、殺した魔物を喰う事で補い。


命からがら何とか、不利な戦況を保っていた。


だが次々と襲い迫る魔物達に、セトは壁際に追い込まれ。


いよいよ逃げ場も無くし窮地の中、魔物達は四方八方から飛び掛かる。


幾ら魔物と化したセトでも、此の状況を打開する事は不可能であり。


因果応報の如く、死に迎えられた瞬間。


「暴食の禁忌が発動されました」


機械的な女性の声が響く。


最後にセトが食べていた、食人植物の影響を受けてなのか。


魔物と化していたセトの姿は、植物の様に紫を帯びた緑色に変貌。


蔓の様に伸びていく手足は巨大化し、その場に居る魔物達を捕食していく。


静かな迷宮に、響く咀嚼音と魔物達の悲鳴。


異変に気付いた魔物達は我先にと逃走を始めるが、押し合う通路に逃げ場は少なく。


阿鼻叫喚の地獄さながら、次々と捕まり食べられていく魔物達。


魔物という養分を得た事で、暴食植物と成ったセトは更に巨大に進化していく。


破邪の塔の壁や天井を突き破り、伸び続ける食手が塔に絡まりながら塔全体を侵食。


まるで最初から、仕組まれた一本の花だったかの様に。


頂上に到達した蔓は、妖しき紫色のつぼみを成す。


世界の滅亡を告げる様に、空の色は紅紫に変わる。


つぼみから漏れ出る毒粉は、通りすぎる鳥を殺し。


其のつぼみが咲いた時の甚大な被害を、容易に物語っている。


人としての、セトの意識などは当に無く。


悪意すら越えた、起こるはずのない災害が起きた瞬間だった。




其の頃。

破邪の塔入り口テントに居たルミニー達は、経験した事の無い大きな揺れに慌ててテントから脱出。


見上げた破邪の塔は、異常に大きな蔓が壁を突き破り巻き付いている。


「此れは異常事態だぞ。こんな現象は文献にも無い、これでは塔が倒れてもおかしくないぞ…… 」


「すぐに隊長を助けなければ…… 」


「だが隊長は待っていろと…… 」


一緒にテントから抜け出した、コボルト調査部隊の隊員達は混乱を窮めていた。


其の間も蠢き続ける蔓の食手は、森の中へと範囲を拡げていく。


「アンタ達、引き受けてやろうか? 」


意外なルミニーの一言に、コボルト達は困惑の表情を返し。


リジョンとルドエルの二人は、諦めた様子で溜め息を吐く。


「此の状況で、いったい何を引き受けるって言うんだ? 」


「決まってるじゃないか、アンタ達隊長の救出依頼だよ」


元より危険だと云われている破邪の塔に、更なる非常事態。


自ら死地に飛び込む様なもので、誰の眼から見ても生存確率は低い。


「正気か? 報酬なら喜んで払うが死にに行く様な物だぞ…… 」


「勿論正気さ。 アタシ達は冒険者だからね、他人の行けない所に行ってなんぼなのさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る