第108話<無理>
「私たちも行きます!」
「本当に良いのかい? 死ぬかもしれないんだよ」
諭す様にルミニーは聞くが、表情を変えないエミリの意志は固い。
「私は回復も出来る様になったから、きっと役にたてると思います」
ルミニーに感化されたのか、お人好しでおせっかいだからか。
こういう事をエミリが言いだすと、父親で在る自分の言う事も聞かないだろう。
「俺達も行くぞ。 このまま逃げ帰ったら隊長に笑われるからな」
人間の小娘に負けてられないと、コボルト調査部隊の三人が声を上げる。
「何だか大所帯になっちまったね、じゃあ早速行くとしますか」
こうして人間で在るルミニー達一行と、獣人で在るコボルト調査部隊の合同チームは破邪の塔に入り。
残りのコボルト調査部隊は、獅獣王国へ報告に向かう。
其の数十分後。
更に伸び続ける蔓はテントを潰し、破邪の塔入り口を塞いでしまうのだった。
其の頃。獅獣王国の街では獣人の住民達が、紅紫に染まった不吉な空に気付き始め。
「いったい何が起きているんだ……」
「破邪の塔の方角だな、これは世界の終わりを告げる凶兆だぞ……」
一様に誰もが立ち止まり、祈る様に空を見上げる。
絶望を口にする大人達を見て、不安がる子供達は泣き出し。
「男共はだらしないね、こんなの明日になれば晴れるわさ。 アンタ達もいつまでも泣いてないで、飯でも食べな」
そう言って獣人の母親達は子供達を慰めるが、不安の表情は隠しきれないのだった。
其の少し前、闘技場に居たガオン達は祝いのムードに包まれていた。
「兄さん結婚おめでとう、少し安心したよ」
国王であるレオンの祝辞も、ガオンにとっては朝の挨拶と変わりなく。
「ガハハ。よく解らんが、めでたいのか」
そう言って笑い返し。
他の者達は肝を冷やしている。
「ガオン様結婚式はどこでしますか? 大きニャ会場が良いですわ」
嬉しそうなウルルの質問に、ガオンは首を傾げ。
「ガハハ式なぞせんぞ、そんな事をしても強くはなれんからな」
そう言って、ガオンは再び笑い飛ばし。
周りの者は諦めた様に項垂れ、ガオンの笑い声だけが響くのだった。
「お嬢様お気を落とさず、式は挙げなくとも夫婦には変わりないですから……」
ジトーがウルルを慰め、皆が笑い祝いの空気に包まれていると。
程無くして闘技場に居たガオン達も、空の異変に気付く。
「何だか空の色ヤバくないですか……」
ゴブドが不安を口にすると、ガオンは笑って返す。
「ガハハ。早い夕暮れだな、めでたいからか」
「いや、あんな禍々しい夕暮れ見た事無いですよ……」
ゴブドの不安を反映する様に、衛兵達の動向も慌ただしくなっていき。
駆け付けたコボルト調査部隊が、ひざまずきレオンに報告を始める。
「毒事件の調査を進めていた所、犯人の人間は破邪の塔に潜伏しており。 現在隊長が破邪の塔に入り追跡中です」
「そうか、犯人は人間だったか……」
怒りなのか悲しみなのか、レオンの表情からは読み取る事は出来ない。
「犯人と関係が有るのかは不明ですが、破邪の塔にて巨大な植物が出現。 其の後、空の色に異変が起きている状態です」
「そんな時に塔に入って、隊長は大丈夫なのか? 」
「偶然居合わせた冒険者の人間とコボルト調査部隊にて、救出に向かっている所です」
「そうか調査は継続だが、くれぐれも無理はしないでくれ」
深く頭を下げコボルト調査部隊が立ち去ると、ガオンが嬉しそうに口を開く。
「ガハハ破邪の塔か懐かしい、次の修行場所が決まったな」
其れを聞いたゴブドとウルルは、同じように項垂れるのだった。
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