第105話<大口>

ウルルのクーガーにはガオン、ジトーのクーガーにはゴブドが共に乗り。


各々の思惑を抱え、四人は獅獣王国へと向かう。


道中ずっとゴブドはマオーに報告せず、出発した事で頭を抱えていたが。


「ガハハ気にするな、もっと強くなれ」


そう言ってガオンは、精神的強さ迄も鍛え上げようとするのだった。


片やウルルはガオンを振り向かせようと、人生で初めての色仕掛けを試みる。


「ガオン様…… 」


そう言って背後から胸を当てガオンを誘惑したつもりだが、鋼の毛並みを誇るガオンに効果は無く。


「お嬢様お気を落とさずに……」


全く気付かれてすらいない事に、一人赤面するウルルにジトーだけが声を掛ける。


もう振り向かせる、手段は皆無に等しかった。


「ガハハ着いたな、懐かしい匂いがしてきたぞ」


獅獣王国入りしたガオンの噂を衛兵から聞き付けたのか、獣人の住民達が街を埋めつくし。


ガオンとゴブドは、思わぬ歓迎を受ける事となる。


ガオンが笑いながら手を振ると、獣人達には喜びの歓声が響き。


ゴブドは驚きのあまりに、大口を開けたままでいる。


「流石はガオン様、凄い人気ですな」


そう誉めながら、下調べしたジトーも驚きの表情を隠せない。


悪童で有名なガオンはその実、争いの殆んどが獣人を守る為の戦いであり。


助けられた事を忘れていない獣人達が、何をおいてもと駆けつけていたのだった。


余りにも多い歓迎にゴブドはビビりっ放しだったが、そのまま進み一行は王宮の入り口に立つ。


「こちらで少々お待ち下さい」


「ガハハ気にするな、レオンは中に居るのだろう」


王宮兵士の制止をものともせず、ガオンは笑いながら勝手に扉を開く。


会談をしていたのか、重役らしき獣人が振り返り。


一際豪華な椅子に座っていた、王であろう獅子の獣人が立ち上がる。


「兄さん……、やはり生きていたのですね」


「ガハハ久しぶりだな、レオンよ」


二人の会話を察したゴブドは、驚きのあまり再び口を開き放すのだった。



一方コボルト調査部隊に連れられ、エミリとトウは破邪の塔入り口のテントに到着したのだった。


エミリは椅子に座り、拘束を解かれた自分は机に座っている。


「反撃される可能性が在った為、手荒い対応ですまなかったな」


そう言ってコボルト調査部隊は笑顔を交わすが、出入り口を塞いだまま警戒は解いていない。


エミリは少し安心したようだが、相手の目的が解らないので油断は出来ない。


「正直理由すら解らないが、てっきり手痛い尋問でもされるのかと思ったがな」


探りを入れつつ皮肉を込めてみたが、隊員達に動揺は無く。


「暴れないなら、そんな必要は無いさ。 我らコボルト調査部隊には、この鼻が在るからな」


慣れたやり取りなのか、そう言って鼻で笑われただけだ。


調査部隊と云う位だから、何かを調べているのは間違いないだろうが。


こうなると相手の出方を窺うしかないな、そんな事を考えていると聞き覚えの在る声が外で響く。


「入れないってのはどういう事なんだい? 調査部隊のアンタらにそんな権利有るのかい?」


そう言って押し合うように調査部隊のテント内に入ってきたのは、ルミニー達一行だった。

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