第104話<各々の思惑>
時は少し戻り、マオーがゴブドとガオンの修行に呆れ離れた頃。
「ガハハ、次は毒沼にでも入って泳いでみるかゴブド!」
止まる事を知らないガオンの無茶降りに、ゴブドが困っていると背後から女性の声が聞こえる。
「お初ニャ御目ニャ掛かりますガオン様」
そう言って微笑む猫人の御嬢様は、クーガーから降りて恭しく一礼する。
「お嬢様気が早いですぞ、私からの紹介がまだです」
同じようにクーガーから降りた山羊の獣人は、取り繕う様に丸眼鏡の位置を直す。
「改めましてガオン様。獅獣王国大臣の使いにてお迎えに参りました、此方は侯爵家令嬢のウルル様と執事のジトーにてごさいます」
白く立派な髭を揺らし、ジトーは頭を下げる。
「お迎えって……? 」
「ガハハ知らん。気にするな、では次の修行だ沼に行くぞゴブド」
ガオンは全く相手にしようとしないが、次の修行に危険を察知したのかゴブドは動こうとせず。
「同じ獣人だし、絶対ちゃんと聞いた方が良いですよ」
そう言って引き止めるゴブドに気圧され、ガオンは渋々立ち止まる。
「これは助かりましたゴブド様。 ガオン様も知っておられると思いますが、人簇が強力な毒の兵器を用いて。 我々獅獣王国の獣人は窮地に立たされております」
「ガハハ好きに戦えば良いだろう、俺様は戦争なんぞには興味が無いわ」
アプローチを間違えた事に気付いたのか、ジトーは長い髭を整え再び口を開く。
「修行と云えば、弟で在られるレオン様も随分強くなられましたな」
ガオンがバトル好きと見越した、ジトーの挑発だった。
まんまとジトーの思惑に乗った、ガオンの顔付きが変わる。
「ガハハ、面白いではないか。 ゴブドよ次の修行は俺様の弟、獅子の獣人と手合わせだ」
ジトーはしてやったり顔で、丸眼鏡の位置を上げている。
「ガオン様、お茶会ニャんかも面白いですわよ」
「ソレは強い奴が来るのか? 」
「強そうニャ人はそんなニャ見た事ないですけど、美味しい御菓子が出ますわ」
ウルルは自慢気に答えるが、ガオンは興味無さそうに。
「つまらん」
そう言って、鼻で笑い返す。
「お嬢様お気を落とさずに……」
すかさずジトーはフォローするが、ウルルはふくれた口元を更に膨らましジトーは笑顔を返す。
こうして各々の思惑は走り始め、ガオンとゴブドは獅獣王国に向かう事となるのだった。
一方。
マオーとピクニックの約束をしたエミリが、慌ただしく出掛ける準備をしていた頃。
「トウちゃん、ソレ取って」
「これで良いのか」
「うん、ありがとう」
たまに調味料渡す位しか、何も手伝う事が無いな。
エミリが楽しそうだから良いが、マオーめ。
エミリを狙って、グイグイ来やがる。
そんな事を考えていると、突然視界が真っ暗に変わる。
「トウちゃん……!?」
なっ、何が起きたんだ。
「コボルト調査部隊である。 取り急ぎ調査が必要なので、拘束させてもらった。 獅獣王国迄来てもらおう」
調査? 獅獣王国?
何を言っているのか解らないが。
もう視界どころか、身動き迄も出来ない。
「勿論、断る権利は無いがな」
「私も付いて行きます! 」
エミリの一言で、少しの沈黙。
「構わん、付いて来るが良い」
何も出来ないまま、話しが勝手に進んでいく。
「エミリ本当に良いのか、危険だぞ」
「大丈夫……。 きっとマオーさんなら、気付いて助けてくれる」
連行され静かになった厨房に、願いの様なエミリの声が響くのだった。
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