第103話<ピクニック>

時は戻り魔王城。


畑で野菜の収穫をしている、エミリとトウを見付けた。


とは言っても、トウはエミリの肩に乗ってるだけっぽいが。


「景色の良い場所を近くに見付けたんだ、たまにはピクニックでもしないか?」


俺のピクニックという言葉に、トウは疑いの眼差しの様な鋭い視線を送る。


だがトウとは違い、エミリの反応は笑顔で上々だ。


「良いですねマオーさん。 それでは準備します、皆さんを呼んで楽しみましょう」


まあ、皆さんは要らないのだが。

どちらにせよ、二人にはなれないから仕方ない。


「じゃあ、時間が経ったら呼びに行くよ」



数時間後。

おかしい……。

エミリとピクニックの約束をしてから、結構時間は経ったはずだが何処にも見当たらない。


ついでに声を掛けようと思った、ガオンとゴブドも見付からない。


この二人は、放っておいても大丈夫だろうが。


これは何か在ったのか?

食事の材料調達にしては長すぎるし、盗賊や魔物に襲われたとか。


あるいは、最近大人しいウスロスが何かしたのか。


不安を抑え早足で玉室に戻ると、クイーンが玉座で居眠りしている。


「皆で景色を観ながら食事をする予定なんだが、エミリを知らないか? 」


「わらわは知らぬぞ。皆と云わず、わらわと二人で良いのでないか? 」


アクビをしながら答えるクイーンは、艶かしく擦り寄り。


骸骨姿でも伝わる柔らかな肉感が、煩悩と理性を戦わせる。


「二人での食事は、又の機会だな」


何とか魔王らしく返したが、正直それは勘弁願いたい。


二人で食事というよりも、俺が食われそうだ。


どうしても仲間を食っていた、あの恐ろしい紅い蟻の姿を思いだしてしまう。


迫るクイーンから離れ、王室を出てネズを探す。


ウスロスには出来るだけ関わりたくないから、もう聞ける相手はネズしか居ない。


やっとの思いで見付けたネズだったのだが、何とも話し掛けにくい。


畑で作業している骸骨兵を、ネズはヨダレを垂らし食い入る様に見つめている。


かなり近付いている俺に、全く気付かない程の凝視。


話し掛ければ其れが今度は、骸骨姿である自分に向くと思うと憂鬱だ。


「ネズ、………」


恐る恐る声を掛けてみたが、自分の世界に入っているのか反応は無く。


ヨダレが滴り落ちて、自分の服を汚してる事すら気付いていない。


「ネズよ、聞きたい事が有るのだが」


やっと振り向いた、ネズの瞳孔は開ききっている。


怖ぇえ。

骨好き過ぎだろ。

幾ら獣人とは云え、犬の比率が高すぎねーか。


「エミリが何処に居るか知らないか? もしかしたら、何か事件に巻き込まれたかもしれない」


改めて聞き直すと、ネズは鼻を上げ不敵な笑顔を返す。


「私の鼻なら探すのは簡単ですけど、私も何か褒美が欲しいですわ」


最近ゴブドに、名前という褒美をあげた事を聞いたのか。


仮にも俺は魔王で上司なのだが、これでは褒美というよりは恐喝じゃねーか。


だが問題ない、ネズの欲しい物は解っている。


「逃げ回る骸骨兵を1体くれてやろう、其れでどうだ?」


「直ぐに始めますわ」


大量にヨダレを落としながら笑顔を返すネズ。


コイツには、ピクニックの飯は要らなさそうだな。


もう既に、ピクニック気分じゃねーか。


こうして行方不明となった、エミリの捜索が始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る