第90話<羽>
「やはり犯人は人間でしたね…… 」
「これで人間達が造ったという毒兵器とやらの噂も、真実味を帯びてきたな」
「嫌だな、戦争になるんですかね…… 」
不安を口走る調査員達を、ギズ隊長は一睨みして口を開く。
「俺達の任務は調査だ、詮索ではないぞ」
余程ギズ隊長が恐れられているのか、一様に調査員達は下を向いて黙り。
其の間もギズ隊長は隊員の一人に、上部へ調査報告の指示を出し。
コボルト調査部隊は、再び調査を再開するのだった。
馬車の座席からセトの匂いを記憶した、コボルト調査部隊の追跡力は凄まじく。
次に辿り着いた場所は、セトが宿泊した宿屋だった。
「女将よ、この部屋を調べさせてもらうぞ」
そう隊長が女将に告げると、女将が了承する間も無く隊員達は室内の調査を始める。
獅獣王国で知らぬ者など居ない、調査部隊が突然の来訪。
女将は最初こそ驚いていたが、納得した様にギズ隊長に話し掛ける。
「ニヤニヤして怪しい客だとは思ったけど、やっぱりお尋ね者だったようですね」
「まあ、そんなところだな。 行き先は聞いてないか? 」
女将を疑う素振りも無くギズ隊長は談笑しているが、嗅ぎ別けるように鼻を小さく揺らしている。
「聞いてないですけど、似顔絵でも描きましょうか? 」
「必要無いぞ、我等にはコレが在るからな」
そう言ってギズ隊長は、自慢気に自分の鼻先を指先で叩く。
「隊長。遺留品は特に無かったのですが、ゴミ箱の中にコレが…… 」
「観たことが無い種族の羽だな、文献で観た不死鳥の羽に似てる気もするが…… 」
こうして宿屋を特定したコボルト調査部隊は、いよいよセトの行き先に迫るのだった。
一方。其の頃、魔王城では。
「今日は野菜炒めか? 」
「うん、簡単だし」
骸骨兵が畑の水やりに精を出す光景は異常だが、もう馴れたのかエミリは笑顔を返す。
エミリの肩に乗っている自分は、エミリが笑顔なのでほのぼのである。
「マオーさんにはコレかな…… 」
そう言ってエミリは、一際デカイ野菜の収穫を始める。
気掛かりなのは魔王城に戻ってから、エミリがマオーを気遣う事だ。
旦那候補の一人として悪い奴ではないと思うが、このままで良いのだろうか悩ましい。
何よりも旦那でもないのに、毎食エミリの手料理を食べているのが気に入らない。
そんな父ちゃんの気も知らず、エミリは上機嫌で厨房に行き料理を始め。
完成した野菜炒めを、食堂で待つマオーに差し出す。
「マオーさんどうぞ」
「いただきます」
マオーが礼を言って、食べ始めようとするとクイーンが口を挟む。
「魔王なのに肉を食わんで良いのか、妾が焼いてやろうぞ」
「其れは、また今度だな…… 」
ゴブリンの造った晩餐を思い出したのか、マオーは体裁の良い断り方で返す。
モテるのは男として良いかもしれないが、どちらにも良い顔をしているのが気に入らない。
「おっ……、おいトゥ…… 」
マオーの食べていた野菜炒めを横取りして、バクつくとマオーが驚きの声を上げる。
それでも食うのは止めない。
「エミリの手料理は……。ウグ、美味いな」
必死でバクつき、腹は玉の様に膨らんでいく。
その光景を見たエミリは、腹を抱えて大笑いしている。
「トウちゃんのお腹マリモみたいになってる、羽まで汚して~ 」
マオーは呆れた顔をしていたが、自分は勝ち誇ったまま倒れ込む。
明らかに食い過ぎだった。
もう動けない位の状態だが、エミリが笑ったので気が晴れたのだった。
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