第91話<手遅れ>
「やっぱり近場だとランクアップしても、稼げないもんだな…… 」
「高収入の依頼が必ず貼り出される訳ではないので、仕方ないですけどね…… 」
ギルド内に貼り出された依頼書を見つめ、ガルのメンバーは同様に溜め息を吐く。
「やっぱり装備に全額使ったのは、まずかったか…… 」
「ランクに見合う装備にするとか、調子に乗るからですよ」
「自分だって、新しい杖買ってただろ」
「私は全額じゃないです」
周りも気にせず、いがみ合うルドエルとリジョン。
其の矛先は、二人のやり取りを静観していたルミニーにも向かう。
「どうせルミニーもギャンブルで、似たようなもんだろ」
とばっちりを受けたルミニーは、特に怒るでも無く呟く。
「まぁ、大きく当てたいのは事実だね…… 」
言葉も無く項垂れる三人は、再び依頼書を眺める。
キラーアントを大量に倒して得た金を、各々使いきったのが原因だった。
ルドエルの新しい装備も、虚しく輝く。
「望んだら駄目だけど、もっと強い魔物が出ればな…… 」
「それなら獅獣王国に破邪の塔っていう、強い魔物が出る場所が在りますけど」
「……依頼書無しの場所か。どれ位の魔物が出るか解らないんじゃ駄目だな」
「獣人すら寄り付かない、危険な場所らしいですけどね…… 」
ルドエルとリジョンの会話を黙って聞いていたルミニーが、不敵に笑う。
「面白いねソレ、ギャンブルみたいで」
失言したとばかりにルドエルとリジョンは顔を見合わすが、もう手遅れなのは云うまでもなかった。
其の頃。魔物を食らい人間を棄てたセトは、紫色になった瞳を輝かせ破邪の塔を登り続けて行き。
新たに遭遇した魔物から、数え切れない程のスキルを奪っていた。
止まる事の無い快進撃は踏破した階数すら解らない程だったが、辿り着いた上階で立ち止まる。
其の異質な階層は、迷路の様に入り組んでいたさっき迄の階層とは違い。
広大な広場の其処には、巨大な二体のゴーレムが立ちはだかっている。
上階への通路を遮る其の存在感は、階層の守護者で在る事を疑いようもなかった。
其れでもセトの薄ら笑いは変わらず、駆け出しゴーレムに斬りかかっていく。
だが頑強なゴーレムにナイフの刃は弾かれ、傷付き欠けたのはナイフの方だった。
「コレは、スキル奪えそうにないね~」
そう言ってセトは溶かす毒液を打ち出し、煙りがゴーレムを中心に辺りを包む。
一時の静観。
沈黙を破る様に現れたゴーレムには傷一つ無く、セトを殴り飛ばす。
フラフラとよろめきながら、セトは立ち上がり。
新たに得たスキルで応戦するが、いずれもゴーレムにはダメージを与えず。
「攻撃効かないバケモンなんて、反則だろ」
そう言い残し逃げるのが、セトに出来た唯一の抵抗だった。
下の階層に降りると、ゴーレムは追っては来ない。
だが獅獣王国に戻るにしては、余りにも進み過ぎており。
こうしてセトは魔物の巣食う世界に一人、取り残されるのだった。
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