第89話<追跡>
「ウグッ……、 酷い匂いだ」
調査を始めようとした調査部隊のコボルト達は、一様に顔をしかめ小言を洩らす。
「ギズ隊長。匂いが強すぎて、これでは調査になりません」
毒液の入った樽を密封処理したとはいえ、まだ毒の残存効果は消えてはなく。
地域一帯を洗浄すれば、犯人を特定する痕跡も消えてしまう。
毒現場から犯人を追うのを断念したギズ隊長は、調査部隊に新たな指示を出す。
「毒が残存する地帯を立ち入り禁止区域として、街中で毒の痕跡を探すぞ」
街中に、被害が及ぶのを解った上で毒を仕込むような悪性。
過去にも犯人は毒を使用していると想定した、ギズ隊長の判断だった。
二人一組に別れたコボルト調査部隊は、街中で同様の毒の臭いを探し始め。
数十分後、一人の人物に辿り着く。
其の人物はセトを悪人と気付かず、獅獣王国に送り届けてしまった商人だった。
「商人よ、其の馬車の中身を調べさせてもらうぞ」
「えっ……!? はっ…… はい、どうぞ」
集結した調査部隊の問いかけに商人は驚きを隠せず、立ち上がり慌てて取り繕う。
商人が、獅獣王国で商いをするようになって数年。
コボルト調査部隊の存在は当然知ってはいても、商人が話し掛けられたのは初めてだった。
「何か在ったのですか? 」
木箱や樽の中身を調べ始める調査部隊を横目に、思わず商人は訊ねるが。
「なに大した事では無い、すぐに終わる」
そう言ってギズ隊長は素っ気なく返し、鼻を揺らすだけだった。
ギズ隊長の言葉通り、数分経たずに調査は終わり。
商人は不安そうに、立ち尽くしたままでいる。
調査隊員達は一列に立ち並び、一人の調査員がギズ隊長の耳元でヒソヒソと報告を始める。
「積み荷と商人には問題無かったのですが、座席に微量の毒が付着しています」
「……ほう、そうか」
報告を終えた隊員が列に加わると、ギズ隊長が再び口を開く。
「商人よ。この国に入国した時、誰か同行した者がいないか? 」
ギズ隊長は質問したと同時に商人に顔を寄せて、嗅ぎ別けるように鼻を揺らす。
「獅獣王国への行き道でキズだらけの冒険者を見付け、馬車に乗せてほしいと言ったので乗せましたが…… 」
「それでは其の冒険者とは、其の日に知り合ったという事だな? 」
「……そうです」
ヨダレが落ちてきそうな程に顔を近付けたまま、ギズ隊長は質問を続ける。
「その冒険者は傷を負ったままなのか? 」
「お金は持っていたので、回復薬を売り与えました。 まさか、その冒険者が何か悪事でも…… 」
商人の質問を遮るように、ギズ隊長は手振りで部下に出発を告げる。
「手間を掛けたな商人よ。 もう良いぞ、商売を続けてくれ」
「隊長殿信じてください。 私は決して、其の冒険者の犯罪とは関係在りません」
不安からか弁明を口走る商人に、ギズ隊長は笑顔を返す。
「信じる必要は無いのだ商人よ。 我等調査隊は、嘘を嗅ぎわける事が出来るのでな」
そう言い残し、コボルト調査部隊は去って行くのだった。
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