第81話<修行の成果>

森の奥では、夜明け前になっても続くゴブリンの修行。


辺りには円を描く様に、凹んだり倒れたりした木々が散乱している。


魔物も寄せ付けない程の、鳴り止まない剣と戦斧の激突音。


だがガオンとゴブリンの実力差が、一日で埋まる訳も無く。


飽き始めたガオンが大きなアクビをした隙に、ゴブリンの一撃が掠り。


「ガハハ、良い攻撃だったぞ」


満足そうな表情でゴブリンに言い残し、ガオンはその場で大の字に寝てしまう。


歓喜の雄叫びを上げる間も無く、ゴブリンは取り残され。


静まり返る森には、ガオンのイビキだけが鳴り響き。


起きそうにないガオンを視て、諦めた様にゴブリンは瞳を閉じる。


何か特別な、修行の成果を実感する事も無く。


こうしてゴブリンの無謀な修行は、なんとか終わったのだった。




ガオンとゴブリンの二人が眠りにつき、時は過ぎ時刻は昼頃。


近付く馬の足音で、眼を覚ましたのはゴブリンだった。


木に登り音のする方を確認すると、馬に乗った20人位の兵士が近付いて来ている。


慌てて木から下りたゴブリンは、ガオンを揺すり。


必死に起こそうとするが、ガオンは大きなイビキをかいたまま。


全く、起きる気配は無い。


辺りを見回し、ゴブリンは倒れた木々でガオンを覆い隠し。


自身は再び木の上に登り、身を隠したのだった。



数分後。

二人が隠れている場所を兵士達は足早に通り過ぎようとしていたが、先頭に居た一人が異変に気付く。


「なんか木の倒れ方が変じゃないか…… 」


他の兵士達も周りを見回し、納得した様に静かに頷く。


警戒した兵士達が静まり返る中、その場に似つかわしくない音が響く。


グゴゴ、ゴゴ~ 。


二人の兵士が、ゆっくりと音の鳴る方へ近付いていく。


慌ててゴブリンが飛び降りると、兵士達の視線はゴブリンに移るのだった。


「なんだ……、ゴブリンかよ」


兵士の一人が馬鹿にした様に笑い、剣を抜きながらゴブリンに近付く。


草むらに隠していた剣を手に、ゴブリンも向き合う。


ゴブリン相手なら数分も掛からないと予想してか、他の兵士達は馬から降りようともしていない。


そんな兵士達の予想を覆したのは、有り得ないゴブリンの善戦。


兵士の剣を上手くかわしたり塞いだりして、見事に攻撃を避けている。


「オイ。さっさと始末して、魔王城奪いに行くぞ」


観ていた一人の兵士が、そう言うと二人の兵士が馬から降り。


戦況は圧倒的に不利な、三対一に早変わりしてしまう。


一人の剣を避けても、もう一人の剣が身体を裂き。


少しずつ削られていく体力。


まだ致命傷こそ避けてはいるが、いずれ倒されるのは時間の問題だった。


其れでも屈しないゴブリンに、兵士達は驚きの声を上げる。


「コイツ……、ゴブリンのクセにしぶといぞ」


この善戦が修行の成果というには、余りにも早計であり。


一人の兵士が言った、魔王城奪うという言葉。


其れを聞いたゴブリンの命懸けの奮起、そう評するしかなかった。


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