第4話<飯と供物>

気持ちが落ち着いたからか、何だか腹が減ってきた。


この牢屋で飯は支給されるのだろうか?。ふと、そんな事が気になった。




支給されたとしても魔物用の食事だろうから、勿論期待は出来ない。


其れを選べる状況でもないのだが、出来れば餓死だけは避けたいものだ。




そんな事を考えていると無性に、母の手料理が恋しくなった。


此れがホームシックというやつなのだろうか?何だか色んな事を思い返してしまう。




母は運動会のように特別なイベントが在ると、必ず好物のシチューを作ってくれた。


頑張ったご褒美だと云わんばかりに、大振りな肉が入っていて。


其れを一口で頬張り噛み締めると、疲れなんて忘れて幸せな気分になれた。




もしも此所から出る事が出来たなら、先ずはシチューを食べたい。


自分で作ってみても良いだろう。


材料や作り方の問題は在るかもしれないが、やはりご褒美は必要だ。




そんな風に懐かしんでいる気持ちをぶち壊すかの如く、牢屋の外が騒がしくなっている。


どうやら新しい囚人が連れられて来たみたいだ。




やはり気になるのか、囚人達の視線は一様に廊下に集中している。


静まり返る牢内には複数の骸骨兵であろう足音が響き、近付いて来ている。




其の足音が立ち止まったのは、俺達の牢屋の前だった。


見上げると、猪顔で巨漢の男が牢内に押し込まれ。


骸骨兵達が手錠を外し立ち去ると、猪顔の男は不満そうに舌打ちをして辺りを見回す。




いわゆるオーク?というやつなのか?もう異世界だという事は疑いようもない。


グフッグフッと鼻息荒く、見回していたオークの視線が止まった。


気のせいか俺と視線が合っているよな。


誤解であってほしい。そう願う様に振り返るが、当然俺の近くには魔物は居ない。




「ニンゲン……チョウド良い、オデ腹ヘッダ・・・・・・」




もうオークの言葉が、死へのカウントダウンに聞こえる。


オイッ骸骨兵!早く止めろ。牢屋内で暴動が起きるぞ。




そんな俺の願い虚しく、骸骨兵は身動き一つしない。


役にたたねー。


一瞬、眼が光った様に見えたから期待してしまったじゃねーか。


口だけカタカタ動かしてんじゃねーよ。




って、そんな事を考えている場合じゃない。オークの荒い鼻息が付きそうな位に近付いて来ている。


終わった。もう駄目だ。




そう思った瞬間。


ライオン顔の獣人が降り下ろした拳で、オークは勢い良く床に叩き付けられる。




「供物に手を出すな」




そう獣人は警告するが後頭部が拳大に潰れたオークには、もう聞こえはしない。




慌てて覆い被さったオークの腕を振り払うと、頭に機械的な声が響く。




<オーク擬態の条件が整いました>




此れはオークに触れたからか?危機一髪だったが、やったぞ。


やっとマトモな冒険が始まりそうだ。




顎をカタカタと鳴らし、何事も無かったかの様にオークの遺体を回収している骸骨兵が腹立つが、まぁ良い。


其れすら気にならない位のグッドニュースだ。




獣人が助けてくれた理由は解らないが、実は仲間になる設定って事なら納得出来る。


さっき供物って言ってたのも、きっと演出だろう。


説明書的な物が無いから、こういう誤解が生まれるんだ。




だが今なら全てを許せる。


神様ありがとう。


さぁ早速スキル確認だ。




<擬態Lv1オーク声真似>




ん?声真似ってどういう事だ?


其れに職種・囚人から<なんちゃって芸人?囚人?>に変わってるじゃねーか。


俺の感謝を返しやがれ。




そんな中、牢屋の外からカチャカチャと食器がぶつかり合う音が近付いて来ている。


どうやら食事の配給は在るようだ。




骸骨兵に運び込まれ、配られた食事を眺めると何かを煮込んだ料理だった。




恐る恐る口に入れると不味い。


ほんのり塩味が付いている位で、味付けらしき味が見当たらない。




其れに肉らしき物の口当たりが異常に固い、本当に煮込んでいるのかという位だ。


気になり入っている肉を良く見ると、其れは耳だった。




うん。コレは柔らかい。じゃねーよ、コレさっきのオークそっくりじゃねーか。


配られた他の皿を見ると、眼・鼻・頬とオークその者で見間違いようもない。




死んだら飯にされるという事か。


だったら供物と飯って、どう違うんだ?そんな疑問が頭を過るが解るはずも無く。


絶望が少し和らいだのは<能力値が上昇しました>という機械的な声が頭に響いたからだった。


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