第3話<一矢>
ずっと落ち込んでいても殺されるのを待つだけだ。
取り敢えず生き延びる為には此処から脱出しなければいけない。
自分の能力に期待出来ないなら、方法は一つ仲間を募るしかない。
この把握出来た笑えない状況から脱出する為の仲間を。
最低でも二人位は必要だと思うが、相手を選べるような場所ですらない。
振り返り同室の囚人を再確認するが、余り視ていると襲われそうなので視線を剃らした。
魔物とはいえ囚われてるのは同じなのだから、逃げようと企んでいる者も居るとは思うが。
魔物とコミュニケーションか。
会話が出来るかどうかは囚人同士の下品な会話で解っているが、問題は種族の違いだ。
彼等にとって自分は食べ物にしかすぎない。
どんな冗談を言っても、決して笑い合う事なんて出来ないだろう。
其れでも何もしないよりはマシだ。
そう無理矢理自分に言い聞かせ、話し掛ける相手に選んだのは監守の骸骨兵。
「お疲れ様です」
白々しく微笑み掛けてみたが無言、反応すら無い事から考えると操られているのかもしれない。
まあ、切り掛かられたりしなかっただけで良しとしよう。
次に選んだターゲットはゴブリン。
小柄で気の弱そうな彼なら、襲われてもどうにかなりそうだし。
見た目どうりで、牢屋内の隅に座っていたのも都合が良かったからだ。
「こんばんは」
小声で話し掛けると、ゴブリンは小さく会釈を返してくれた。
人間と何ら違いない、この感じなら何とかなるかもしれない。
「君は何をして捕まったの?」
「村で役にたたないから追い出された・・・・・・」
魔物にも何かしらルールが在るのだろう。
余り追及しない方が良さそうだなと思っていたら「僕は生き物殺すの好きじゃないから……」とゴブリンは呟いた。
やはり聞かなきゃ良かった。
生き物って。
どう考えても人間の事だろ。
もしも軽い気持ちで「此所に来る前はどんな生活してた?普段は何食べてるの」とか聞こうものならと思うと怖ぇ-。
小さいからとゴブリン侮ってたよ。
もう怖くて、誰にも何も聞けねーよ。
こうして仲間を集めて脱獄する作戦は、物の数分で頓挫した。
裏切られては意味が無いから、予定では誰を脱獄する仲間に選ぶかと相手の素性を知る事だった。
勿論ククク野郎は論外だ。
だが知れば知るほど怖くなり其れすら出来ない。
ゴブリンとも離れ一人壁の隅に座り、目立たないように俺は壁と同化した。
決して実際に同化した訳ではないのだが、此れがユニークスキルの擬態なのか?
体育座りなんて小学生以来なのに、この状況ならコレしかないと思える。
そんな自虐的冗談を思い付いたが、こんな殺風景な牢屋の中では笑う気力すら無い。
手の届かない位置に在る格子窓を眺めていたら、涙が流れていた。
泣いてる場合じゃないのは解っている。
何時までこの牢獄で生かされているのか解らないのだから。
時間は無い。手段も無い。
正に八方塞がり。
ただ殺されるのを待つしかないのだろうか?。
そんな事を考えていた時だった。
「人間にはスキルが有るんだろう、お前のスキルは何なんだ?」
ライオン顔の獣人に話し掛けられた。
人間は俺しか居ないから間違いない。
慌てて涙を拭い、視線を合わす。
コミュニケーション的にはチャンスだとは思ったが、威圧感が凄まじい。
少し口ごもりながらも何とか答える。
「擬態です・・・・・・」
嘘は付かない方が良いと思った。
何が切っ掛けで怒りを買うか解らないからだ。
「ククク、クク」
案の定ククク野郎が又笑い始めたが、もう気にはしない。
「ガハハ、何だ其れは聞いた事も無いスキルだな、やってみろ」
やってみろも何も、スキルの使いかたが解らね-んだよ。
勿論声には出せない。
だが良い事を思い付いた。
「それではやります。ククク・・・・・・」
「それだけなのか?」
「そうです」
牢屋内に魔物達の笑い声が響く。
ククク野郎も一緒に笑っていたのは恐かったが、少しは気が晴れた。
どうだ。ざまぁみやがれククク野郎、只の物真似だが一矢報いてやったぞ。
そう思うと何だか可笑しくなってきて、一緒になって笑い合っていた。
悲惨な状況は何も変わってはいない。
其れでも何か救われた気がしたのは、魔物とでも笑顔になれたからかもしれない。
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